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営業部の主任の中川さんは、僕に冷たい。初めて会った時から、ずっと冷たい。
他の社員には笑顔で優しく接しているのに、僕が質問したり、ご飯を食べに行こうと誘ったりすると、そっけない反応をされる。
友人に話したら、一目惚れして照れ隠しをしているだけではないかと言われた。確かに、顔は整っている方だし、昔からよくモテていた。けれど、中川さんの反応は今までのそれとは違う気がした。
どちらかというと、苦手意識を持っている、嫌われている、という表現の方がしっくりきた。
言動には気を付けているし、初めて会った時から失礼のないようにしていたつもりだったが、彼女には失礼だと思われる部分があったのかもしれない。入社して3年が経った今も尚、中川さんとは距離を詰められないでいる。
「中川さん」
僕が名前を呼ぶと、中川さんが僕の顔を見て一瞬間を置いてから「何?」と言った。その声が冷たくて、僕は悲しくなる。
「今度、営業に同行してもらいたくて」
「……同行?」
「はい。今任されてる大きな案件がもうちょっと契約が取れそうなんですけど、相手がなかなか決めてくれなくて。そこで主任の中川さんにも同行してほしいんです」
「部長じゃダメなの? 私より役職は上だし」
僕は首を横に振った。
「部長は色々忙しいみたいで」
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