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もみの木の章 旅立ち
━━━15歳になった。
朝起きるとHPとMPは10のままである。あれから歳を重ねただけでは、なぜかこれ以上上がらなくなってしまった。
今日は天使のアリエル様が迎えに来る日だ。
俺も光魔法も覚えたりして、少しは成長出来たはず。それに爺さんも婆さんもホビットには……見えないけど見かけはゴブリンよりでもわりと穏やかな顔をした優しくて独特ないい夫婦だと思う。毒気の薄まった?灰色になったガルさんも新たに一緒にいるから紹介しないとな。まだ来ないのかなー。
トントン、トントン。
来た!玄関のドアがリズムよく叩かれた。この叩き方…そうだ!天使様だ!
「はーい、アリエル様ですかー?お上がりになってください」
トントン、トントン。
「どうぞ、あいてますよ?」
トントン、ト、
「知らないの?う〇ちくんは、つっ」
ガシャ。
「なに言ってるんだ、アリエル」
たまらず玄関を開けてしまったではないか!
「久しぶりー、迎えに来たよー」
そうだった。こいつってこういう奴だったっけー。
「皆久しぶりー」
「お久しぶりですわい天使様」
「お久しぶりじゃ天使様」
「うんうん、お元気そうでなにより。へー強そうなワンちゃんがいるじゃん。あたし天使のアリエルよろしくね」
「ウーワウ!」
「狼のガルさんは耳が聞こえてないんだが……」
ガルさんに手を当てる。
『もしかしてアリエルの言ったことわかるのか?』
『あーなんか、知らないが脳に直接響いてくるみたいに聞こえるぞ!』
「もちろん、アリエル、テレパシーなんて余裕よ」
「おお、さすが天使」
「へへ、誉めて誉めてー」
まったく調子のいい天使だ。
「ところでルクスー、この二人ってー、さっさとホビットにしないのー?」
「えっ?ホビットにできるのか?」
「あっそうか、説明してなかったっけー」
ポンと握りしめた手を手のひらに当てた。
「今のルクスの光魔法なら、本気でやればできるんじゃねー?」
「そうなのか!それならやってみるか」
爺さんに向けて手をかざし、10分の魔力を込めて光の魔法を放った!
光が全身を包むと、灰色の肌に赤みが増し、肌色に変わっていくではないか!全体的に丸みを帯びていく。爺さんは隠してた前髪をかき上げて、初めてまともに目を合わせてきた。鋭くつり上がった目が垂れて下がり、ニコニコ笑顔のホビット爺さんに変身した!
「おお、爺さん、ホビットだ!ホビットになってる!」
「またまたーそんなわけー……」
水面の顔を覗いて。
「ホンマやー」
ニコニコ怪獣が誕生してしまった瞬間でもあった。
「MP使い切ってしまったから婆さんは今度か」
「これ使って」
赤マムシとラベルが張られたビンを受け取った。
「えっ?ありがとう…」
いかにも身体中元気になりそうなドリンクである。飲んでみると甘くて全身に魔力がたぎった。
「おお、MP全快になったぜ!次は婆さんだ」
婆さんに手をかざして、全力の魔力を込めて光魔法を放った!
光が婆さんを包むと肌色に変わり、全身が丸みを帯びて、少し意地悪そうだった大きな目が垂れて、ほんわかした表情に変身したのだ!
「おお、婆さん、ホビットだ!ホビットになってる!」
「あらあら、そんなわけないザマス」
水面を覗くと、
「ホッホッホッホ」
ほんわか婦人が誕生してしまった瞬間でもあった。
「はいこれ」
「おっありがとう」
また赤マムシを受け取ったので、飲むと全身に魔力がたぎってきた。
「くぅー、きたー!」
これでMPが全快した。
「じゃー皆とお別れして行こっか」
「えっ?皆俺と一緒に行くんじゃないの?」
「わしらは歳だからここにいるわ、ただ年寄りの知恵が必要になった時、また来いよ」
「あらあら、一人立ちするザマス」
「そっか」
まあ年寄りはそうだよな。
『ガルさんは、来てくれるでしょ?』
『ほう、私は、私より強い者にしか従わないね。まあルクスがどうしてもって言うなら、私の五感を取り戻してくれたら、考えてやってもいいぞ』
『わかった。調べてくるよ』
『まっ気長にここで待ってやるわ』
「じゃ行こっかアリエル」
「うん、行こ」
「皆、ホントに…ホントに…ありがとう」
涙が出るのを我慢して頭を下げる。
「ほなねぇー」
「あらあら、お元気で…体に気をつけるザマスー」
顔を上げると二人も涙ぐんでいた。
「じゃ行ってくる」
アリエルと玄関を出て家から離れていくと。
「ワオォォォォン」
ガルさんの寂しそうな遠吠えが木霊していた。
立ち止まって空を見上げる。眩しい、どんな時でも太陽は照らすのをやめない、きっと、ガルさんもどこかで見守ってくれるだろう。
「行くか」
煌めく光の下、気合いを入れ直し、旅立った。
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