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モミの木の章 かりそめの半島
―――長い道のりだった。水辺の脇をひたすら進みながら、時々単体で出てくる灰色鼠を倒していくこと丁度、計10匹目を倒した。のだが……。
「ムシャムシャ、倒した。しかし、これでカサゴケなくなった……どうしよアリエル!?」
回復薬がなくなってもーた。
「うーん……あれ?……なんかあそこ半島になってない?」
「あー確かにあれは半島?っていうのか、砂地の左右が水辺になってるからなー……まあ行ってみるか」
「ええ」
―――とりあえず先を進んでいった。
「あれ?おかしいわねー、確か水辺の端は断崖絶壁のはず……半島なんてなかったはず?」
アリエルはテコっと首をかしげた。
先に進めば進むほどきれいな砂地が狭まっていく。左右に広がる水辺の小さな波の道引きが心地よい音を立てていて、まるで南国にいる気分にさせてくれるようだ。
―――そして半島の先についた。断崖絶壁どころか辺りには水辺が広がっていた。
「アリエル、下におりれる場所ってどこなんだ?」
「確かこの辺りってー、断崖になってて、壁に印があったはずなんだけどー」
彼女が右側の水辺の上を手で触るように振ってみるが空を切るだけだ。そりゃそうだ空気は掴めない。
ん?何か音が聞こえたような。
アリエルの方に近づいていく。
テテテェテ、テテテェテ♪
「ん?なんか今聞こえなかったか?」
「えっ?なにも聞こえなかったけどー」
そっか勘違いかー。アリエルから離れて辺を探ってみる。
「どこだろー」
アリエルは辺りを探りながら離れて行った」
探してみるが変わったところは特にない、水辺が広がってるだけだ……そういえばさっきアリエルが立っていたところから不思議な音がしたんだよあー。気になったので戻って半島の先の右側に近づいていくと。
テテテェテ、
音がした。
テテテェテ、テテテェテ、
近づくと音がハッキリとしてくる。この音はギターの音か?
テテテェテ、テテテェテ、テテテェテ、
近づけば近づくほど、その音は悲しく心に響いていくような、
テテテェテ、テテテェテ。テテテェテ、テテテェテ♪
誰かが何かを語りかけてくるように感じる。それはそんな曲だった。
間違いないアリエルが最初に印があると言ってたところから、エレキギターの音がする。なんだか頭が冴えていく。
「……そうだ!アリエル、なぜこの辺りにスライムやほかの魔物はいないんだ?」
「そうね、確かに変ね―」
アリエルが顎に指を当てると、
「魔物がいないってことは、この辺りの魔物が狩られたか……近づけないほどのなにか強力な存在、もしくは魔物……魔族……いやこの天使様の感覚を狂わすほどの存在が……」
ヤバイ!アリエルがなにやらゾーンに入っていて大きな推理を言っている!
テテテェテ、
「アリエルこの辺りからなんか音がするんだけど」
「ブツブツブツブツ、えっ?」
正気に戻ったアリエルが近づいてきて聞き耳を立てる。
「なにも音なんてしないよー?」
テテテェテ、
「いやさっきから聞こえてる。ギターで弾いたような音が聞こえるんだ」
「うーむ、変ねー。あたしには聞こえないで、ルクスには聞こえる音かー……わからん!」
「ぷっ!なんだそれ」
天使でもわからないか。俺にしか聴こえない音、
テテテェテ、
俺にしか出来ないこと、
テテテェテ、
俺にあるのは見ること。
テテテェテ、
見たい、
テテテェテ♪
音の聴こえる方へ手を伸ばして、魔力を、
【一つは見る力。蠢くものの正体を暴き見る力を…ブー!ERROR ERROR】
「あれ?」
「あっそうだ!はいこれ」
アリエルから小瓶を渡された。
……これは!俺は手渡されたそれをグビグビと飲み干した。
「ブハー」
MP満タン来たーーー!元気100倍赤マムシ!
「やっちゃいな、ルクス」
「ああ!」
音のする方へ手をかざす。
【一つは見る力。蠢くものの正体を暴き見る力】
胸の辺りから魔力が溢れ、その全てを手の方へ流して、解き放つ!!
小さな光の玉が放たれた!
すると放たれた光は水面を通る前になにかに反射されてしまった!だが当たった部分に正方形の鏡が浮かび上がる!さらに鏡の僅かな隙間に入った光が、隙間の中を走り抜けていき、無数の正方形の鏡が浮かび上がっていくではないか!
「なんだこれは!?なにが起こったんだ?」
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