もみの木の章 おわり

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もみの木の章 おわり

 ―――気がつくと白い世界にいた。そこは両端に垂直の壁が天上を貫いていて、果てのない真っ平らな道がどこまでも続いていた。 「そんな……」    なぜ?    ……唖然としてる場合じゃない。 「アリエル?どこ!?どこいったの?アリエル」  ひたすら真っ白な道を走る。 「ハァ、ハァ、ハァ」  走っても。  走っても。  扉は見つからない。  疲れたので歩いて探すが。  ―――白い道と壁だけだ。  アリエルはどこにもいなかった。 「アリエル……」  疲れ果て座り込んで、ただの真っ白な壁を見つめる。  うつら、うつら。  あーそうだ。  なぜか眠くなった後に。  扉が現れたよなー。  もう寝よう。目を瞑ると。  ……意識が遠のいていく。  ―――目を覚ました。  目の前には白い壁。  辺りを見渡しても、扉はなかった。  呆然と真っ白な壁を見つめる。  ……けどわかった気がする。  この壁はおそらく……。  トントン、トントン。  例の独特なリズムで壁をノックする。  すると。  目の前に扉が現れた。 「思い出して」  扉から漏れた光は、 「あなたを求める」 彼女の諭すような優しい声に、 「身近な声を」 同調するかのように、 「助けを求める」 虹色の光を点滅させ、 「彼女の声を」  そう言った。  ―――扉に松の印が光に刻まれるように現れた。  扉を開くと。  真っ白な光りに包まれ―――白い世界が歪み―――景色がはっきりしてくると、白い花を咲かせた低木が溢れる園庭に立っていた。 「どこだ?ここは……」  白い花の低木、草の道のカーブが続いている。  園庭の緩やかに曲がる細い道を歩いていくと、久々に見る自然豊かな景色に心が洗われていく。  道を進んでいく、道は、螺旋になっていて、園庭の中心向っているようだ。   ―――やがて中心と思われる所についた。草の小さな広場があるだけだ。  「だれ?」  ビックリした!誰もいなかったはずの園庭、振り返ると長い黒髪の小さな女の子がいた。顔がモザイクがかかっていて口元しか見えない、桃色の上品な着物を着た不思議な女の子だ。 「ねぇ、かくれんぼしない?私を見つけたら、いいこと教えてあげる」  口元がニコッとすると。 「たとえば、あっち。ほらあっちむいて」 「ん?あっち」  彼女の指した方を見てみると。 「ほい」 「ほい?」   振り返ると女の子が消えていた。 「消えた……かくれんぼか、懐かしいなー……久々にやってみっか」  螺旋の草の細道を、白い花の低木の中を隈なく探しながら歩いて行く。  「いないなー」  ―――3分の1くらい探したがなかなか見つからないなー。 「……いない」  ―――もう半分以上は探したが見つからない。 「どーこいったんだ?」  ―――やがて全ての白い花を咲かせた低木の中を探したが見つからなかった。 「うーん、見落としはなかったはずだがー」  道の先は草原が広がっていた。草原に行こうとすると。 「いて!んなんだこれ?」  体がぶつかった。手で触って確かめてみる。どうやら見えない壁が貼られてて、この先へは進めないようだ。振り返って、園庭を見つめる 「全部見たんだけどなー」  ……そうだ俺はなにしにここに来たんだっけー?  ……なにか大切なことを忘れている気がする。  目を瞑って、思い出そうとする……誰かの声を聞いた気がする……なんとなく聞いたことがある声、その声がだんだんと聞こえてくる、「助けて……助けて」と。  誰かが助けを求めている、胸がなんだか締め付けられる。会いたい。 またあの子に。  目を見開いた。見る力、そうだ俺の力は!  少し思い出したこの力は―――。  右目に力を集中する。胸から、魔力だけではない、なにかもう一つの力が右目に集まっていく、それは全身の血流が魔力と絡まって螺旋を描いて集まり、右目に力、いやまるで本来の姿を取り戻していくかのように力が湧いてくる!けどそれと同時に強い怒りと破壊衝動に心が支配されていく。  それを抑えようとするとどんどんと深みに落ちていく、心が沈んでいって、憂鬱が思考を停止させる。なんて愚かなんだ俺は。たとえこの先絶望が待っていたとしても、それでも人はまた、光を。小さな光、希望を求める。光だ!意識を集中させ負の感情をなんとか抑え込む、しだいに園庭に幼女の姿を映し出す。そうだ!この目はいつも真実だけを映し出す。未来も過去もそして現実(いま)も。 【ルクスが神徒Lv.2になった。神眼(探索(サーチ))を覚えた】  ……彼女は目の前の白い花の咲いた低木の茂みの中にいた。モザイクかかった彼女と目があった気がして。 「見つかっちゃった」  無邪気に微笑む口元。 「いいこと教えてあげる、ここはあなたの精神の場所」  精神の場所? 「あなたの心と肉体は、次元の狭間と向こうの世界のでバラバラにされてるの」  そうだったのか、肉体だけはあっちに戻ってるのか。 「けど大丈夫、だって」 「ほら、あなたには翼があるじゃない」  姿が変わった。顔の見えない大人になった彼女が指差す。  その先には、光の翼があった。  そうだ俺の背中に翼がある!この翼は―――。 「ねえ、ルクス、この花の花言葉を知ってる?ビバーナム・ティナスの花言葉……私を見て(・・・・)」  園庭が崩れ去っていく、俺は彼女の手を取った。羽のない(・・・・)光の翼をはためかせ自然と空を飛ぶと、園庭も草原も消えさってしまった。  俺は空中で、見えないはずの彼女の目を覗き込むと彼女の映像が断片的に流れてくる。  ―――なにかから逃げる黒髪の少女が映り消え。  ―――彼女を守り散る戦士達の姿を見て――彼女の頬から涙が落ちていく姿が見えて消え。  ―――そしてその先には、一人淋しく孤島にいる彼女が見え――ダメだこれ以上は!深く沈みすぎた憂鬱(かんかく)に耐えきれず、ブラックアウトした―――。    
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