もみの木の章 アバン 青年~

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もみの木の章 アバン 青年~

━━━やがてもみの木は青年の特攻隊長になりました。 ついに天井を突き破る時がやってきたのです。 「よっしゃー、いくぜー、あばよおっさん、もみの木神に俺はなる!」 そう言って天井を突き破ると……そこに光はありませんでした。 「マジか……」 押し退けたかつてのパイセン達の骸、その隙間から覗いた世界は、外は分厚い雲におおわれていて大して日の光は届きません。それどころか酸の雨嵐が吹き荒れていて、枯れて倒れた木々を溶かしているではありませんか。 「まじかー……ちきしょう!まだ先がある、誰よりも上にいってやる、俺はこいつらとは違うんだ」 彼は諦めません、彼は酸の雨に耐えながら、かつてのパイセンもみの木達を押し退けて、少しづつ成長していきました。 そして倒れて重なった全ての先輩を押し退けると、ついに誰より高いもみの木となりました。 ……しかしそこにもたいして光はなかったのです。 それどころか直に当たる酸の雨がとても痛くて痛くて。嘆いてももう、そこに先輩の傘はありません。 ついにそれ以上上には行けなくなってしまいました。 てっぺんからみた景色は、どこまでも続く分厚い雲、渇れて倒れた先祖達が広がる大地、その先には不毛の大地が広がっています。そんな世界を眺めていると震えてしまい。 「まじかー……」 引きこもりになってしまいました。 くる日もくる日も続く轟く雷、嵐の暴力の数々、そんな日々をくる日もくる日も耐えてると気力がなくなり、もみの木の心はどんどんと暗闇の中に沈んでいってしまいました。 それは珍しく雨が止んだある日のことです。どこからか小さく痩せ細った小邪鬼(ゴブリン)の青年が、木の棒をアクセルのように回しながらやって来ました。 「ブンブン、オレはシス、ゴブリンライダーになる男だ」 「俺は……名前はない、ただのもみの木のようだ」 「ぷっなんだそりゃ……それより俺腹減ってよう。お前の葉っぱ食わせろ」 「なんだお前、それが木に物を頼む態度かよ、まあいいや勝手に取って食ってってくれ」 どこか諦めてたもみの木でした。久々に誰かと喋ったので少し気力を取りもどしたのか、なんとなくでもあって、半分投げやりに自分の一部をあげてしまったのでした。 「んじゃ遠慮なく」 ゴブリンのシスは枯れた木々をかき分けて、中からもみの生木をブチッと枝ごと引きちぎると、葉の先に生えた若葉を食べます。すると。 「マズ!さっき手に入れた若葉食お、ムシャムシャ、うんこっちの方がマシだな」 「ひど!……ん?それってもみの木の葉じゃ?……なあ俺以外に生きてるもみの木がいるのか!?」 「なんだお前そんな元気あるんじゃんか、まあいいや、ああいたぜお前より小さなもみの木があったよ」 「そうか……そうだ!そいつを俺に振ってみてくれないか?」 「えっ?いいぜ、不味い葉のお礼だよ、それ」 ゴブリンがもう一つの葉を振ると花粉が飛んできます。すると。 「はっはっぶはぁくしょん!いけねー花粉症かな?」 【ゴブリンは花粉症になった】 ラッキー、受粉成功だぜ! この時もみの木は、生きる気力を取り戻ししたのでした。 ━━━やがてもみの木は成長して大人になり、背の低い大木になりました。 体にはスイカよりも大きく超絶ビックなもみの実をつけました。やがてもみの実はその重みに耐えきれなくなると、地下へと落ちていってしまいましたとさ。
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