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もみの木の章 アバン 大人~
もみの木のその後はというと、相変わらずただひたすら自然の猛威に耐えてます。耐えても耐えても直に酸の雨が当たる頭に二度と若葉は生えてきません。そしてどこまでも続く分厚い雲と枯れた大地を眺めながら、世界のせいにしてました。
「こんなはず、こんなはずはねー」
酸の雨に耐えついに体に葉は枯れて最後の2本になってしまっても、おじさんよりマシと思い、暴風に耐え腰を痛めて木にヒビがはいってしまっても、それでも耐え続け、分厚い雲から日の光が入ってこないか眺めていました。
「あーあの雲が悪いんだ。あれを突き破るくらい大きくなれればなー、はは、そんなの無理か、はぁー隕石でも降ってあの雲突き破ってくれないかなー。そしたら雨も止んで、浴びるほど光を浴びれるのに……光だ、光さえあれば俺は……」
「オラオラオラオラー」
そこに魔大狼の背に乗り、相変わらず背は小さいががっしりとした体型で、大人になった邪鬼ゴブリンが通り過ぎていきました。
「ゴブリンライダーになったぜ」
「自慢かよ!」
━━━そして時は経ち、もみの木は老木となって……倒れてしまいました。
「光だ、光……光さえあれば俺は……いや……光はなかった……バタリ」
子供の頃見た綺麗な砂、綺麗な水も流れてて心地よい子守唄を聴かせてくれたんだっけ、おっさんと眺めたあの景色、あの頃は楽しかったな……そうかあったんだ。
その時です。どこからかやってきた小邪鬼の夫婦が近づいてきました。
その顔は醜くて憎悪にまみれています。彼らは寒さに震え、飢ており、身も心も乾ききっていました。
もみの木はゴブリンライダーの子かな?と思いました。そしてこう思いました。そうだ!太陽がないなら俺が太陽になればいいのだと。
「ゴブリンライダーの子よ、寒いなら私を燃やすがいい、私がこの世界の太陽となろう。あっそうそう私の根の地下に綺麗な水と食べ物があるはず。そこに行ってみるといいよ」
その時ゴブリン夫婦はお互いをみると邪悪な笑みを浮かべ笑っていました。
彼らはもみの木を折って、地下へと運んでいきます。そうすると確かにそこには綺麗な砂と水がありました。彼らは水辺で喉を潤すと砂の上でもみの木を燃やし暖を取り、近くの苔の中に生えたキノコを焼いて食べて飢えを満たすとその本性をあらわしたのです。
「馬鹿な木のおかげで助かったわー」
「ああ馬鹿なもみの木だ、太陽は燃えてない、考えればわかること、太陽に空気ない」
「……そうか……じぁなんで……太陽は光るのかな?……暖ったかい……のかな?」
「おや?まだ喋る元気あったのかい、気味悪いわー、ねーあなた」
「ヒヒヒ、明度の土産だ。それは核融合、それは化学変化、それは核融合」
「かくゆうごう?かくゆうごうって、何が起きてるのかな?」
「さあな、宇宙の神秘、神様のやること、そんなことワシ、知らない。ヒヒヒ」
「ヒヒヒ」
「そ…う…か……太陽…って……神様……か……」
神様、生まれ変わったら僕をお日さまにしてください、僕にこの地下を照らすお日さまにしてください。
━━━不思議な夢を見たんだ。
「いこ」
どこからか白い翼の生えた無邪気で慈愛のあふれた女の子が、僕の枝を取って飛んでいったんだ。そこは白い世界で、そこで慈愛にあふれた綺麗な大人の女の人から、なにか使命を受けた気がする。それは不思議な夢なんだー。
「あ…り…が…とう…、か…み……さ……、…ま」
もみの木の老木は燃え尽きてしまいましたとさ。
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