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もみの木の章 風の来訪者
━━━どうやら俺はお家に運ばれたようだ。寒い、お腹すいた。
「オンギャー、オンギャー」
「どうしましょう、爺さんや、綺麗な布やお湯、それにお乳をあげないと、わしの乳はもう出んしのう」
「そうじゃのう、もう干からびてしまったしのう」
「ハハハ、なんか言ったかい爺さんや?」
「ハハハ、なんでもないです婆さんや、さて、わしは石鍋で湯を沸かして、わしの一張羅の毛皮を煮沸してこようかのう。んじゃ」
「待ちなさい爺さんや、あんたのきったない一張羅じゃこの子に悪い菌が移っちまう」
グフッ!
【爺さんは心にダメージをうけた】
「この間私用に作った新しい毛皮を持ってくるか……ああこれこれ」
「そんなもんあったのか?ワシなんてずいぶんこのボロで」
「なにか言ったかい?」
「いえばあさんその新品念のため煮沸してくるよ」
「お願いしますね爺さんやー」
最後に早口で捲し立てるように逃げたじいさん。足音が遠ざかっていく……爺さんは外に出てしまったようだな。
「ん?お前ら赤子を狙いに来たのか!?魔鼠め!」
外から爺さんの叫び声が聞こえる!魔鼠っていうネズミの魔物が外にいるのか!?
「魔鼠!?こりゃいかん、よーしよし」
婆さんに抱き抱えられた。
「ヂュー!ヂュー!」
複数の魔鼠の鳴き声が聞こえる。
「こうなったら、ゴブリンライダー直伝、奥義ロープの舞で絞め殺、痛!まだしゃべっている途中じゃろうが!えーい、やっぱこん棒の錆びにしてくれる」
明らかにこん棒でぶっ叩く音が聞こえる。ゴブリンライダー直伝奥義はどこいった!?
てかこん棒は錆びんよ爺さん、いや突っ込んでる場合じゃない、俺も応援しないと。
「オンギャー!オンギャー!」
あっいけねぇ、泣いてしまった。
何かがドアを突き破った音がした!
「ヂュー!ヂュー!」
まずい、魔鼠に入られてしまったようだ。
「大丈夫よ、爺さんはやる時はやる男じゃ」
婆さんの抱き締める音が強くなる。
「ワオォォォォォン!!」
それは絶対的な強者の遠吠えだった。一瞬沈黙を場が支配した。恐怖である。たった一吠えで皆硬直して動けなくなってしまったのだ!
「ヂュー!?ヂュー!!」
一瞬の出来事だった。それはまるで風が吹き抜たかのように何かが通り過ぎた音がして、気がつくと終わっていたようだった。現にもう外から魔鼠達の鳴き声が聞こえない、マジか!なんかもっとヤバイ奴が来たんじゃ…嫌な予感しかしないんだが……。
「なっなっなんでこんなやつがこんな所に」
いつの間に中に入ってきたのか、爺さんが近くにいた。ふぅー、爺さんかー。
その何かがドアをぶち破った音がして、風が吹き抜けた。
中にいた魔鼠達の鳴き声も気配も消えてしまった。
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