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もみの木の章 その目の意味
静寂、いや何かの鼻息が聞こえる、そいつが匂いを嗅ぎ始めた音がする、何かが何かを咀嚼する音がする。噛み砕く音がする。
「ふぅぅぅ」
爺さんが大きく息を吸い込んでいる音がする、ビューっと何かが風を切った音がしたら、
「ワウゥ!?」
犬が驚いたように鳴き声をあげた!
「グゥルルルルルアー!」
あれ?狼が中で暴れてるようだ。そこら辺で音がなり、部屋中に響いている…ヤバくないか?
「へへへ、見たか!…これぞよっと…おっ親父直伝!…まっ…魔狼騎乗、奥義ロープの……あーれー」
スゲー、スゲーぜじいさん、もしかして魔狼を乗りこなしているんじゃ?…爺さんが壁にぶつかった音がした。ダメだったようだ。
「貴様、最後まで言わせんかこのじゃじゃ狼めぇ、貴様なんてこのロープの錆びに…待て、待つんじゃ!こんな骨と皮だけのジジイ食ったって、ギャァァァァー!!アッアッア……アッ?」
ダメだったのか?爺さん……ん?狼が匂いを嗅いでる音が聞こえる気がする?
「ん?ロープの匂いを嗅いでおるのか?……おっお前もしや、風太郎か?風太郎なのか!?ずいぶんでかくなったなー、風貌はおぞましいが……」
「グルルル!」
「落ちつけワシだ、シルだ……お前その目…もしや目が見えてないのか?おい!風太郎! ?」
「ハウ!ハウ!」
「危ないじゃないか風太郎!どこに向かって噛みついておる!風太郎!風太郎!……お前もしや聞こえておらんのか?落ちつけ!落ち着いてくれ…そうじゃロープ、ほれ親父のロープじゃよ」
「はぁはぁはぁはぁ、すーすー、すーすー」
やばい!このままだと爺さんが食われてしまう、俺になにか、なにかできることはないのか?赤ちゃんの視力じゃほとんど何も見えない。
真っ暗だ。目を瞑って一旦気持ちを落ち着つかせる。
転生したならなにか、なにか力があるとかないのかなー?そんな力が見えたらなー、
「くぅーん、くぅーん、グゥルー、グルルルルル!」
「落ち着け、落ち着くんじゃー」
ヤバイ!なんとかしないと!なにかないのか?なにか……、まわりが気になってしょうがない、くっそー目が見えれば、見えろ、見えろ、見えろ見えろ見えろ、見えるんだ!…ダメだ見えない。
「しっしー…ダッダメよ…ダメ!この子はダメー!!」
「ハァハァハァ、フガフガフガ」
…狼の鼻息が当たってる……やばい!食われるー!
婆さんの抱き締める力が強くなった。婆さんの心臓の音が聞こえる。
鼓動が早くなってく、優しく力強い音、命の鼓動だ。
『一つは見る力、蠢くものの正体を暴き見る力』
ふと頭にそんな優しい女性の言葉が過った。
なんだか目を覚ました気分だ。そうだ俺が助けないと!
見る!俺はこの魔物の正体を見破ってやる!
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