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第三章 王都
「いやあ、相変わらずゴチャ付いた街だねえ」
ルーシーは舗装された美しい道を馬車で通りながら言った。
花の王都、『ローゼンガイア』に二人はいた。
道行く人々は誰もが美しい出で立ちで、どこを切り取っても絵になるほどである。
「ホントはこんな堅苦しい街、来たくなかったんだけどなあ」
ルーシーは客からカネはとるが、高級志向というわけではなかった。生まれも西の田舎である。
ルーシーはポケットから手紙を取り出し、恨めしそうに見た。
「まったく……。王室経由で手紙を出すなんて、アイツも偉くなったもんだよ」
手紙の最後には、
『ロキシールド・ルーデンシュタイン』
と書かれていた。
指定された宿屋に、ロキシールドはいた。
「相変わらずちっちゃいな、お前」
「お前は相変わらずゴツいままだなあ」
ペアゾルは黙ったままだった。
「そしてまだ美人連れかよ」
「お前より剣の腕は確かだ」
「知ってるよ」
「さっさと本題を話せ」
「軍に戻って来ちゃくれねえか?」
「やだね」
「近々でかい戦がある。お前の力が必要だ」
「別に僕がいなくても兵士は強いだろ。王室付き魔法使いだっているし」
「誰だって死にたかないのさ。たとえ自分の一部を代償にしてでも」
ロキシールドはルーシーの前に分厚い紙束を置いた。
「これは?」
「署名兼嘆願書だ。自分が死んだらぜひお前に生き返らせて欲しいってやつらのな」
「あきれたね。お前は説明したんだろ?」
「ああ。カネは貯めてる奴らばかりだし、なんなら王様直々に資金は出すそうだ」
「じゃなくて、一部を失うことだ。……お前みたいに」
ロキシールドは元死者だった。姉の依頼で蘇ったのだ。その際、彼は嗅覚を失った。
それは、蘇生の代償としては、軽い方だった。
「そうだな。俺みたいに安い酒か高い酒か匂いでわからなくなるなよ、とは言っておいた」
「それは説明とは言わない……」
「なんだ? 性格の悪いお前らしくないな。いつもみたいにカネの亡者を演じていろよ」
「僕は蘇生は喜んでするけど人の死ぬところは見たくない」
「あきらめろ。そんな能力、一生隠して生きなかったお前が悪い」
「それは……」
ルーシーの脳裏を、一人の男がかすめた。
「とにかく、戦には参加しない」
「お前だってわかってんだろ? 逃げられないってことぐらい。お前の兄貴の場所も知られてる」
「下衆が……。わかった。でもひとつ条件がある」
「なんだよ」
「行きたいところがある」
そしてルーシーは、見張りにロキシールドをそのままつけられ、王都をあとにしたのだった。
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