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6
「お母さん……なの?」
涼香に訊く。よく考えれば、彼女に確かめるのも変なのだけれど。
彼女はまた、大きく頷いた。
「……なんで?」
わけがわからない。
それから涼香は、泰彦を外のテラスに連れ出し、経緯を聞かせてくれた。
*
約3年半前。
重いうつ病と診断された泰彦の母は、静養すべく、故郷の伊豆高原の病院に入院した。
最初の1年は、外部の人との接触を絶ち、治療に専念。寛解と悪化を繰り返しながら、少しずつ快方に向かう。
入院二年目。
治療の一環として、絵を描き始めた。
そうするうちに、もっと上手く描きたいという意欲が生まれ、病院の紹介で絵画教室に通い出す。
その時の先生が、涼香の母だった。
メキメキと水彩画の腕を上げる泰彦の母は、頑張りが結果につながる好循環の中で、病気も回復していった。
ウマが合った二人は、次第に茶飲み友だちとなる。それも、泰彦の母にとっては良かった。いや、涼香の母にとっても。
*
「泰彦!」
「涼香!」
相次いで、女性の声がした。
二人がびっくりして声のした方を向くと、絵画展の建物から、二人の母親が駆け出してきたところだった。
泰彦の母・恵は、そのまま泰彦に飛び付くようにし、強く抱き締めた。
一瞬、呆気に取られそうになったかが、
「ごめんね、泰彦、ごめん……」
そう言って頬ずりをする母の中で感情が溢れ出し、母に抱きつきながら号泣した。
母の胸の中でひとしきり涙を流した泰彦が顔を上げると、今しがたまでいたはずの涼香の姿が見えない。
「……あれ?」
「涼香ちゃんね、お母さんと一緒に、あそこのカフェに行ってる」
恵がそう言って、建物を指差した。
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