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「お母さん……なの?」  涼香に訊く。よく考えれば、彼女に確かめるのも変なのだけれど。  彼女はまた、大きく頷いた。 「……なんで?」  わけがわからない。  それから涼香は、泰彦を外のテラスに連れ出し、経緯を聞かせてくれた。            *  約3年半前。  重いうつ病と診断された泰彦の母は、静養すべく、故郷の伊豆高原の病院に入院した。  最初の1年は、外部の人との接触を絶ち、治療に専念。寛解と悪化を繰り返しながら、少しずつ快方に向かう。  入院二年目。  治療の一環として、絵を描き始めた。  そうするうちに、もっと上手く描きたいという意欲が生まれ、病院の紹介で絵画教室に通い出す。  その時の先生が、涼香の母だった。  メキメキと水彩画の腕を上げる泰彦の母は、頑張りが結果につながる好循環の中で、病気も回復していった。  ウマが合った二人は、次第に茶飲み友だちとなる。それも、泰彦の母にとっては良かった。いや、涼香の母にとっても。            * 「泰彦!」 「涼香!」  相次いで、女性の声がした。  二人がびっくりして声のした方を向くと、絵画展の建物から、二人の母親が駆け出してきたところだった。  泰彦の母・恵は、そのまま泰彦に飛び付くようにし、強く抱き締めた。  一瞬、呆気に取られそうになったかが、 「ごめんね、泰彦、ごめん……」  そう言って頬ずりをする母の中で感情が溢れ出し、母に抱きつきながら号泣した。  母の胸の中でひとしきり涙を流した泰彦が顔を上げると、今しがたまでいたはずの涼香の姿が見えない。 「……あれ?」 「涼香ちゃんね、お母さんと一緒に、あそこのカフェに行ってる」  恵がそう言って、建物を指差した。
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