2人が本棚に入れています
本棚に追加
白が基調の、高原にピッタリのモダンな建築様式。
「涼子さん……あ、涼香ちゃんのお母さんね。彼女に救われたの、お母さん」
「うん。さっき涼香ちゃんから聞いたよ。良かったね、お母さん」
母は優しい眼差しで頷いてから、
「代わりにね、今、フルートを教えてるの」
「えっ、フルート?」
「そう。絵を教えてくれたお礼に」
と言って、カフェの中に見える涼子に視線を送る。
理解が追い付かない泰彦が、
「お母さんがフルートを教えてるの?どういうこと?」
そもそも、母とフルートが結び付かない。
「母さんね、結婚するまで、ここでフルート教えてたんだよ」
「えーっ、そうなの?」
泰彦の声が、森に響き渡る。初めて聞く、母の結婚前のこと。
「別に隠してたわけじゃないんだけど。お父さんが、いい顔をしなかったから」
「……やめろって言われたの?」
「はっきりとは言われなかったけどね。だから、結婚して、独身の私は全てここに置いて、新たな生活を始める覚悟で出てきたの」
「そうだったんだ」
「でも、無理し過ぎたみたい。結局、みんなに迷惑かけちゃった」
「……お母さん」
涙ぐむ母を見て、新たに込み上げる。母は洟をすすりながら続けて、
「実はね、涼香ちゃんにもフルート教えてたこと、あるんだよ。たった半年だけどね」
「えーっ」
またしても泰彦の声が響く。
(そう言えば、幼少の頃、フルート教室に通っていたと言っていた)
国府津駅のホームで話した時のことを思い出していると、
「泰彦、この後カフェでライブやるから、見ていって」
母がそう言って、泰彦の手を取り、歩き出した。
入ったカフェ店内は、4人掛けのテーブル席が10個ほど。奥に小さなステージが設けられ、簡単な飾り付けもなされていた。
「じゃ、母さんも準備があるから、何か好きなジュースでも飲んでて」
そう言ってステージに向かう母は、K町にいた頃とは別人のように輝いて見えた。
最初のコメントを投稿しよう!