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席に座ってオレンジジュースをストローで吸っていると、ほどなくして涼香と涼子がステージに現れた。
白いドレスに身を包んだ彼女が、より大人っぽくて、見とれてしまう。と、彼女も
「泰彦くーん」
すぐに気づいて手を振ってくれた。
泰彦も大きく手を振り返す。
母と涼子も、ステージ上から笑みを向けてくれた。
そして、5人の女性たちによるフルートのアンサンブルライブがスタートした。
なめらかで澄んだ音色が、まるで森に響き渡るようだ。
誘われたかのように、店内はいつの間にか満席になっていた。
メロディーの流れに合わせ、涼香の体が優雅に揺らぐ。
初めて見る、別世界の涼香。その姿があまりに美しすぎて、口をポカンと開けたまま見とれていた。
3曲目の演奏が終わり、涼香がマイクを取った。そして、
「では、次が最後の曲になります。みなさんもよく知っている、童謡『みかんの花咲く丘』です。どうぞみなさんもご一緒に、歌って下さーい」
晴れやかな笑顔の彼女の、張りのあるソプラノボイスに続き、ラストのフルートの共演がスタートした。
前奏に続き、店内に歌声が響き始める。
♪みかんの花が 咲いている
思い出の道 丘の道
遥かに見える 青い海
お船が遠く 霞んでる
……
恥かしくて、最初はもぞもぞと歌っていた泰彦も、周りの人たちに引っ張られるように、徐々に大きな声になる。
2番、3番と歌っていくうちに、涼香が、チラッと泰彦に視線を送ってくれた。
お互いの視線が合うと、彼女が揺らぎながら微笑んでくれた。
演奏が終わると同時に、店内は大きな拍手に包まれた。
「ブラボー」
「最高」
あちこちから歓声が上がる。
5人の女性たちは、ステージ上で起立し、達成感に満ちた笑顔で、深々とお辞儀をする。
それから、顔を上げた涼香は、真っ先に泰彦に手を振ってくれた。
「涼香ちゃん、すごーい!」
泰彦が精いっぱいの声を投げかける。
「泰彦くんも、今日はありがとう!」
涼香も、輝く笑顔で返してくれた。
その隣で、二人の母の笑顔も、負けないぐらいに輝いていた。
(完)
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