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3
次の日も学校は休み。
泰彦は、前の日と同じ10時頃に、洋館に向かう。と、昨日と同じメロディーが迎えてくれた。
坂道の向こうの海は、昨日よりもやや霞みがかっているが、吹き上がってくる風は相変わらず爽やかで、木々の葉を揺らしている。
メロディーが終わる。
鼓動が高まる。
(……来た!)
白いドレスの少女の姿が窓の向こうに見えたかと思うと、大きな窓を開け、顔を覗かせた。
空き地から見上げている泰彦にすぐに気づき、彼女の顔がパッと笑顔になる。
泰彦も笑顔を弾けさせると、昨日のように手を振ってくれた。
話もしたことがないどころか、昨日初めて会っただけなのに、笑顔で手を振ってくれているのが嬉しくて、泰彦も大きく手を振り返す。と、
「そこで待っててー」
彼女が言って窓を閉め、姿を消した。
(えっ……来るの?)
驚きから、嬉しさへ、さらに気恥かしさへと気持ちが転がる。
またしても、鼓動が強く打つ。
間もなくして玄関ドアが開き、彼女が出てきた。そして、門扉を開けると、
「お待たせ」
初対面とは思えないようなフレンドリーさで、泰彦の元に駆け寄ってきた。
「あっ、こんにちは」
はっきりと言ったつもりだったが、それが精一杯。そんな泰彦を見て、彼女は可笑しそうに、
「あなた、よく覗いてるでしょ」
「えっ……」
「だから、私の部屋」
そう言って、ちょっと悪戯っぽい目を泰彦に向ける。
(バレてたのか……)
バツの悪さを見抜いたように、
「見えてたよ。カーテンしてたから、あなたの方からは見えなかったかも知れないけど」
目を細めて笑う。それでも、「覗いていた」なんて言われたのが少し心外で、
「別に、そんなつもりじゃ……」
ハスを尖らせると、彼女も
「冗談だよ。人ぎき悪かったね。ごめんなさい」
と言って、ペコリと頭を下げた。その後で、
「せっかくだから、ちょっとそこでお話ししましょうよ」
そう言って、ずんずん先に坂を下っていく。
「えーっ、ちょっと待ってよ」
泰彦も後を追いながら、自然にタメ口になっていた。
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