1/4
前へ
/15ページ
次へ

 次の日も学校は休み。  泰彦は、前の日と同じ10時頃に、洋館に向かう。と、昨日と同じメロディーが迎えてくれた。  坂道の向こうの海は、昨日よりもやや霞みがかっているが、吹き上がってくる風は相変わらず爽やかで、木々の葉を揺らしている。  メロディーが終わる。  鼓動が高まる。 (……来た!)  白いドレスの少女の姿が窓の向こうに見えたかと思うと、大きな窓を開け、顔を覗かせた。  空き地から見上げている泰彦にすぐに気づき、彼女の顔がパッと笑顔になる。  泰彦も笑顔を弾けさせると、昨日のように手を振ってくれた。  話もしたことがないどころか、昨日初めて会っただけなのに、笑顔で手を振ってくれているのが嬉しくて、泰彦も大きく手を振り返す。と、 「そこで待っててー」  彼女が言って窓を閉め、姿を消した。 (えっ……来るの?)  驚きから、嬉しさへ、さらに気恥かしさへと気持ちが転がる。  またしても、鼓動が強く打つ。  間もなくして玄関ドアが開き、彼女が出てきた。そして、門扉を開けると、 「お待たせ」  初対面とは思えないようなフレンドリーさで、泰彦の元に駆け寄ってきた。 「あっ、こんにちは」  はっきりと言ったつもりだったが、それが精一杯。そんな泰彦を見て、彼女は可笑しそうに、 「あなた、よく覗いてるでしょ」 「えっ……」 「だから、私の部屋」  そう言って、ちょっと悪戯っぽい目を泰彦に向ける。 (バレてたのか……)  バツの悪さを見抜いたように、 「見えてたよ。カーテンしてたから、あなたの方からは見えなかったかも知れないけど」  目を細めて笑う。それでも、「覗いていた」なんて言われたのが少し心外で、 「別に、そんなつもりじゃ……」  ハスを尖らせると、彼女も 「冗談だよ。人ぎき悪かったね。ごめんなさい」  と言って、ペコリと頭を下げた。その後で、 「せっかくだから、ちょっとそこでお話ししましょうよ」  そう言って、ずんずん先に坂を下っていく。 「えーっ、ちょっと待ってよ」  泰彦も後を追いながら、自然にタメ口になっていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加