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「あ、横笛?」  泰彦が訊くと、また可笑しそうに笑って、 「そうだね。横笛だね」 「そんなに笑わなくてもいいだろ?」  ちょっと膨れる泰彦に、 「あ、ごめん。でも、女の子の憧れなんだよ」 「フルートが?」 「そうそう。吹奏楽部に入ったら、やりたいっていう人が一番多い楽器のひとつ」  と、少し得意げな表情になる。  女子の憧れの楽器を吹いている、私立の女子中学生のお姉さん……。  その姿を想像する泰彦の胸の中で、ますます憧れの気持ちが広がる。 「涼香ちゃんって、スゴイんだぁ……」 「そんなことないよ」  照れる涼香の横顔がかわいくて、胸がキュンとしながら、 「学校で習うの?」 「ううん。学校は、リコーダーだけだよ」  と、今度は縦笛を吹く仕草を見せる。それなら同じだと思いながら、 「じゃあ、涼香ちゃんはなんでフルート吹けるの?」 「教室に通ってたの」 「へぇ。そんな教室、あるんだ?」  彼女の通う教室が見てみたくて訊くと、 「この辺じゃないよ」 「えっ……じゃあ、町の方?」 「ううん。伊豆」  と言って、海の向こうの半島を見る。 「伊豆?」  思わず大きな声になる泰彦。涼香は、遠くを見たまま、 「私、小さい頃、伊豆にいたの」  ポツンと言った。 「俺のお母さんも、伊豆が故郷って言ってた」  泰彦が言うと、涼香は「えっ?」という表情を泰彦に向け、 「伊豆の、どの辺り?」 「確か、伊東って……」 「えーっ、私も伊東にいたんだよ!」 「うそっ」  涼香と泰彦の大きな声が、ホームに響く。  それから、お互いのこれまでの話で盛り上がった。
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