12.それくらいの浮気は許すわ⋯⋯。(エステル視点)

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12.それくらいの浮気は許すわ⋯⋯。(エステル視点)

「ダニエル・ガレリーナ皇子殿下に、エステル・ロピアンがお目にかかります」  今日はダニエルの誕生祭だ。  私は自分の誕生祭にも関わらず、私をロピアン侯爵邸まで迎えに来てくれたダニエルを見て心から好きだと思った。  彼は他の多くの男のようにナタリアに興味を惹かれたりもしたようだが、それはあくまで一時的なものだ。  平民になったナタリアと彼とでは不釣り合いだし、ロピアン侯爵邸の後ろ盾が欲しい彼は私を大切にしている。  チラリと彼が侯爵邸の屋根裏部屋の窓を見るのが見えた。 (ナタリアが気になるのね⋯⋯)  気になったところで、ロピアン侯爵邸のメイドに過ぎない平民のナタリアはお留守番だ。  彼女が皇宮でのパーティーに出られる事などない。  彼女は男を惹きつける特別な何かを持っているのではないかというくらい、男は皆彼女を放っておかなかった。  まあ、それは彼女の中に流れる卑しい娼婦の血によるものだろう。 (もしかしたら媚薬を使ってたのかもしれない⋯⋯あのキノコの効き目は凄かったわ⋯⋯)  彼女は、そう言ったもので男の情欲を煽ることはできても、私のように大切にされる女にはなれない。  ダニエルだって、ナタリアの前では彼女を庇う素振りを見せても私と2人きりの時は私だけを大切にしてくれる。 「殿下、早く参りましょ」  私はピッタリと彼の腕に絡みつき、馬車でも彼の隣の席を陣取った。  今日の私は秘密の香水を持っている。  ナタリアが私に渡して来た媚薬入りの香水だ。  昨日、私を性的に興奮させたキノコを元に作成したらしい。    悪臭という欠点を補うように、様々な成分を調合したと彼女は言っていた。  ようやっと彼女も自分の飼い主が誰であるかを認識したようだ。  皇室の馬車のフカフカのソファーに座りながら、ダニエルの腕に頬擦りする。 「殿下、お誕生日おめでとうございます。これからも、共に時を重ねていきましょうね。マテリオ皇子殿下もオスカー皇子殿下も排除できましたし、次期皇帝の座は殿下のものです」 「ああ⋯⋯そうだな」  彼は私の髪を私の仕事に対する褒美ともいうように撫でてきた。    私はマテリオ皇子にオスカー皇子毒殺未遂の罪を着せることに成功した。  その上、ナタリアにマテリオ皇子を籠絡し殺害するように命じた。  彼女がマテリオ皇子を誘惑しているところを見れば、ダニエルも彼女の正体がアバズレだと気づくと思った。  そして、ナタリアは予想以上の仕事をし、人嫌いのはずのマテリオ皇子が彼女に夢中なのは誰が見ても明らかだった。    結局、彼女はマテリオ皇子の暗殺には失敗したようだが、負傷した彼がどこまで逃げ切れるか見ものだ。  その上、皇宮に戻ってきたところで、彼にはオスカー皇子の殺害未遂の嫌疑がかかっている。  今、皇宮を留守にしていることで、彼への疑いは強まるばかりだ。  夜中に彼の部屋をロピアン侯爵邸お抱えの暗殺者たちに襲わせた。  彼が隠し通路を使うことは折り込み済みで、その出口で彼の愛するナタリアに殺させる予定だった。  そして、そのまま目障りなナタリアのことも始末してしまおうと思っていた。    ダニエルにはナタリアを計画に巻き込んだ事だけは秘密にしていた。  しかし、どこからか計画が漏れてダニエルはナタリアを救ってしまったようだ。 (それくらいの浮気は許すわ⋯⋯私は未来の皇后だもの)  私はダニエルに多くのものを与えられる。  名門ロピアン侯爵家の後ろ盾に加えて、帝国一裕福と言われる莫大な資産は私と結婚する事で彼が得られるものだ。    馬車の窓の外を見ると、夕暮れの中、皇室の馬車を見てダニエルといる私を羨ましがっている女たちが見えた。  私は、この帝国で、つまりはこの世界で最高の身分につく女だ。  今日は秘密の媚薬を使って、未来の皇帝と深く強い絆で結ばれる。  皇宮に到着する頃には日も沈んでいた。  真っ白で豪華絢爛な皇宮⋯⋯もうすぐ私はここの女主人になる。  レアード皇帝は高齢で退位が間近だとされていた。  彼は次期皇帝である皇太子を指名していないが、現状ダニエルしか該当者がいない。  馬車を降りて、ダニエルが差し出した手を重ねる。 「エステル、今日は大人しいね。そのドレス、やっぱり似合っている。プレゼントして良かった」  不意にドレスを褒められドキッとした。  今晩は情熱的に彼にプレゼントされたドレスを脱がされそうだ。  結婚するまで貞操を保つとか関係ない。  いつも何を考えているか分からない部分があるダニエルを私に夢中にさせたい。 「この赤いドレスを着ていると、殿下の情熱的な瞳を思い出して体が熱くなりますわ」  少し際どいことを言いながら、彼に視線を向けてみた。  すると彼はそっと私から視線を逸らした。 (照れてるのかしら、可愛いわ⋯⋯)  アクセサリーも全て最高級のルビーで揃えた。  今日、誰よりも目を惹き羨望の眼差しを手に入れるのは、富も権力も最高の男も手に入れた私だろう。 「ダニエル・ガレリーナ皇子殿下と、エステル・ロピアン侯爵令嬢のおなーり」  舞踏会会場にダニエルと入るなり、一斉に貴族たちが私たちを見る。  ダニエルがオーケストラに合図を出し、私たちが舞踏会開始のダンスを踊る。  演奏が始まると共に、ダニエルのリードに身を寄せながら踊った。  今、この世界の主人公は私だ。  夢のような気分に浸りながら、ふとダニエルの表情を見た。 (何を見てるの? 目線が全く合わないわ)  ふと、ダニエルの視線の先を見ると、淡い紫色のドレスを着たナタリアが弟のサントスと一緒にこちらを見つめていた。  サントスも例外ではなく、他の男同様ナタリアに夢中だった。  だから、今日のダニエルの誕生祭にナタリアを誘ったのだろう。 (余計なことを⋯⋯)  さっきまで、世界の中心になったような最高の気分だったのに、私の中で苛立ちが止まらなくなった。  
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