16.本当にこのネガティブ思考なんとかしたいわ⋯⋯。

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16.本当にこのネガティブ思考なんとかしたいわ⋯⋯。

 サントスからプレゼントされた淡い紫色のプレゼントを着て、皇宮へと向かった。  馬車で最初は私の向かいに座っていたサントスは私の隣に移動してきた。 「ナタリア、何か怒っている?」  サントスが下がり眉で尋ねてくるが、私は黙っていた。  ナタリアの記憶が十分戻らないが、情婦で十分な安い女と思われている事だけは分かる。  何だか自分をそのように軽く見ている男と話す気にはならなかった。  無言のままエスコートされながらも、舞踏会会場に到着する。他の貴族たちが、私のことを不釣り合いな場所に潜り込んだ鼠だと噂しているのが分かった。サントスは私を批判する声を咎める訳でもなく、ただ私の隣にいる。 (なんだか虚しい⋯⋯早いとこ今日のメインイベントを見届けて帰りたい⋯⋯)    本日の主役であるダニエル皇子とエステルが入場すると一斉に注目が彼らにうつった。明らかにエステルは足取りも表情もおかしくて、今にも公の場で失態を起こしそうだ。  2人が舞踏会開始の合図を知らせるダンスを終えると、ダニエルが私に近づいてきた。  思わずエステルの表情を確認すると、公の場で見せてはいけないような怒り狂った顔をしている。  中枢神経がやられて理性的な判断ができないのか、娼婦のようにダニエルを誘惑して彼を連れ出そうとしていた。  彼女が自爆するのも時間の問題だと考えた私はサントスと中庭に出た。  中庭に出た途端、ここで誰かと愛を語りあったような記憶が淡く蘇る。周囲から粗末に扱われる私を心から愛してくれた人がいたような気がする。 (そんなはずないか⋯⋯ただの願望ね⋯⋯) 「ナタリア、君と踊りたい」  不意に私の前に跪きダンスを申し込んできたサントスにため息が漏れた。 「情婦になって欲しいなどという男とは踊りたくはありません」 「えっ?」 私の言葉は彼にとって予想外だったらしい。 「いや、でも身分の差を考えると君を妻に迎える訳には⋯⋯形なんてどうでも良くないか? 2人が一緒にいて想い会ってさえいれば」 「身分の差ではありませんよね、本当の理由は⋯⋯私を自分の性欲を満たす道具にしたいなんて馬鹿にしすぎです」  最後の方は声が震えてしまった。  娼婦の娘、爵位を失う程の罪を犯した男の娘だから私はこれ程に軽んじられるのだろう。  それ以外の理由が思いつかなくて、自分ではどうにもならない事で見下されるのが悲しくて唇を噛んだ。 「ナタリア、俺は心から君が好きなんだ。それだけは信じて欲しい」  サントスは私の手を引くと会場から漏れる音楽に合わせてダンスを始めた。  私は一歩踏み出そうとして、彼の足を思いっきり踏んでしまった。 (どうしよう⋯⋯ダンスを踊った事はあるはずなのに記憶がない)  脳内に記憶がなくても、体が覚えている事を願ったがそんなに甘くはなかった。 「それが君の答えか⋯⋯それなら、俺は自分がどれだけ君を愛してくれるか伝え続けるだけだ」  彼は私が足を踏んだのはワザとだと感じたようだ。  自分に酔ったように告げてくる彼の告白は私には響かなかった。愛の告白ではなく、自分に都合の良い女でいてくれと言われているようにしか聞こえない。  好きだと言いながら結婚しようとは決して言わない卑怯な彼。  彼もまた私を利用したホストのスバルと変わらない。  うんざりしてたところに、突然、ダニエル皇子が現れた。  私は彼にお願いしてオスカー皇子の元へ連れて行って貰った。  オスカー皇子はラリカが登場する頃には毒によって衰弱して死んでいる。  ダニエルと双子である彼は姿こそ似ているが、顔は血の気が引いて今にも事切れそうだ。  ラリカは主人公らしく聖女の力があるから、彼女がいればオスカー皇子は助かっていた。  私はオスカー皇子に毒を盛った本当の犯人を知りたかった。  マテリオが犯人でないならば、彼は堂々と皇宮に戻って来れる。  槇原美香子時代にハマった男だったからか、私はマテリオが冤罪である可能性を信じていた。    驚くべきことに、ナタリアも聖女の力を待っていたらしい。オスカー皇子を目覚めさすが事ができた。  早速、事件の真相を聞こうと思った矢先、エステルがやらかしていると聞いて私は現場に急いだ。  エステルは無差別に男を誘惑し、淫れきっていた。私は裸で土下座をしているのを晒されそうになった事を思い出し、扉を開け放って彼女を見せものにしようとした。 「ロピアン侯爵⋯⋯こうなってしまったら、エステルとの婚約は解消させて貰う」  ダニエル皇子は早くも他の男に跨るエステルを切ることを決めたようだ。  貴族が集まっている彼の誕生祭での婚約者の恥ずべき失態はあっという間に噂になるだろう。 「エステルは勘当します。ダニエル皇子殿下.、これからも、ロピアン侯爵家はこれまで通り殿下をお支えするつもりです」  カイラード・ロピアン侯爵はそっと扉を閉めると、エステルを切る事を宣言した。  貴族らしく非常にドライな親子関係だ。今はエステルの失態による火の粉が己に掛からないように必死なのだろう。  扉を閉めても獣のように喘ぐエステルの声が聞こえてくる。  ダニエルは顔を顰めながら口を開いた。 「その話はまた日を改めよう。それから先程の侯爵のナタリアへの言動から彼女が侯爵家で不遇な扱いを受けているのは明らかだ。彼女は僕の方で預からせてもらう」  ダニエル皇子は私を守るつもりで提案したのだろうが、私には自分がモノのように扱われているように感じて酷く落ち込んだ。 (本当にこのネガティブ思考なんとかしたいわ⋯⋯)  私のそのような気持ちを察するように、ダニエルは私の肩を抱いてくる。 「君は僕の大切な人だから、傷つくのを見たくはないんだ」  私にしか聞こえないような声で耳元で囁く彼はやはり新宿ナンバーワンホストが転生してそうだ。
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