6.私が興味あるのは、ダニエル皇子殿下のキノコだけです。

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6.私が興味あるのは、ダニエル皇子殿下のキノコだけです。

「ここは、皇宮ですよね⋯⋯家に帰して欲しいと言ったはずですが」  暗闇に白く浮かび上がる宮殿にはゲームで見覚えがある。  乙女ゲーム『トゥルーエンディング』の舞台であるガレリーナ帝国の皇宮だ。  ダニエル皇子のメインルートでは、ラリカが皇宮でメイドとして働き始めた日に出会いのイベントが発生していた。  ラリカが他の使用人たちに言いがかりをつけられ、水を掛けられて意地悪されていた所をダニエル皇子が助けるのだ。   「ロピアン侯爵邸に戻るつもり? あそこにいたら、君はまたエステルに虐められるよ」  馬から降りたダニエル皇子の手をとり、馬を降りながら私は違和感を感じた。 (ロピアン侯爵邸? エステル・ロピアン?) 「あの、私の家はロピアン侯爵邸なのですか?」 「本当に記憶が曖昧なの? 君の家、ルミエーラ子爵はあのようなな事があって爵位を失って、君は遠戚であるロピアン侯爵家でメイドとして奉公させられてたじゃないか」  私が暗殺者だと思ってたナタリアは暗殺者ではなく、元貴族のエステルの遠戚だったようだ。 (あのような事? 爵位を失う程の罪を犯したということかしら⋯⋯) 「もっと、私の事を教えてください。記憶が曖昧どころか、本当に何もかも忘れてしまったような感じなんです」  私は自分のことについて知りたかった。  『トゥルーエンディング』の悪役令嬢とも言えるエステルの遠戚なのに、 ゲームのプロローグでしか登場しないナタリアの不自然さが気になったからだ。 「君は僕の恋人だったよ。深く愛し合ってたんだ。君は世界中のキノコより、僕のことが好きだと言ってたよ」  私の唇を親指で撫でながら、私を誘惑するように囁くダニエルは嘘をついている。  キノコを愛しているのは私であって、元のナタリアではない。  そして、キノコを愛する者ならば、キノコは人と比べる事のできない唯一無二の存在だと思っているはずだ。 「ダウト! 今、嘘をついてますね。記憶がないと言う人に嘘を吹き込むなんて最低です」 「最低? 初めて言われたよ」   ダニエル皇子は笑いながら、私をエスコートするように手を差し出した。  戸惑いながらも、私はその手に手を重ねる。  外はもう真っ暗だから、今日は皇宮に泊まらせて貰った方が良さそうだ。 「今晩も、この部屋を使って。ナタリア、今日は色々あって気持ちが落ち着かないみたいだね。明日は朝食を一緒にしよう。これからの事を話し合いたい」  案内された部屋には見覚えがあった。  ラリカが皇宮で滞在していた部屋だからだ。    淡い水色のカーテンに、天蓋付きのベッド。  メイドが使う部屋としては豪華過ぎるこの部屋は、ゲームの中でダニエル皇子がラリカに用意したものだった。  皇宮でダニエル皇子から興味を持たれたことで嫉妬を買って、ラリカへの虐めは酷いものになっていった。  それゆえ、他の使用人から離したところにダニエル皇子はラリカの部屋を移動した。  その上、彼は自分の専属メイドにして彼女を守った。 (その特別扱いが、今度は余計にエステルの嫉妬を買うのだけれどね) 「一晩泊めて頂く事には感謝します。でも、これ以上、私はダニエル皇子と関わり合うつもりはございません」  何となくダニエル皇子と関わると死亡フラグが立ちそうで怖かった。  しかも、彼の私への接し方はホストのソレと似ていて、私の頭で危険信号が鳴り響いている。 「僕と関わるとエステルの嫌がらせが怖い? 君も僕に少しは興味を持ってくれていると思っていたけれど、兄上に心変わりしたかな?」  私の髪を人束とって口づけながら囁くダニエル皇子は女を口説くプロだ。  私の髪は先程まで土に寝転がっていただけあって汚い。 (不快な本心を一切見せず、口説きに徹してるわ⋯⋯流石、ナンバーワン)  おそらく「やめてください汚いです」と言えば、「君に汚いところなんてない、全てが綺麗だ」と返してくるだろう。  ホストクラブで男の上っ面だけの口説きに慣れた私には彼のテクニックwは通用しない。 「私が興味あるのは、ダニエル皇子殿下のキノコだけです」  彼は自分のキノコがあると言っていた。  もしかしたら私の趣味に合わせて言った営業トークかもしれないが、本当にキノコを部屋で育てている可能性もある。 「え、えっと、そんなダイレクトに誘惑されるとドキッとするね。マテリオを落としただけの事はあるな」  ダニエル皇子は一瞬戸惑った顔を見せつつも、私の頬に触れようとして来た。 「もう遅いので、お休みなさい!」  私は彼の色恋営業に付き合っている暇はないので、彼を部屋の外に出すと扉を閉めた。    (誘惑? 一体何を言ってるのか⋯⋯)
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