7.私はダニエル皇子は唆してません。

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7.私はダニエル皇子は唆してません。

 扉を閉めた後、私は浴槽に浸かって埃を洗い流す事にした。  この部屋は便利な事にお風呂がついていることを私は知っている。  クローゼットを開けると、ゲームで見たメイド服が置いてあった。  ラリカの外出着と寝巻きにパーティードレスまで置いてある。  これは最初にこの部屋にラリカが連れてこられた時に用意してあるものだ。  ダニエル皇子が君の為に用意したと言って、「優しいですね」と返すのが正解の選択肢だった。  やはり、ここはラリカの部屋になる場所だ。  マテリオ皇子暗殺事件から、数日後にラリカは皇宮のメイドとして現れる。  ダニエル皇子がラリカの為に用意したと言っていた部屋や服は、とっくに他の女も使ってた可能性があったようだ。 (やはり、ダニエル皇子は根っからのホスト気質だな⋯⋯地雷だ⋯⋯)  服を脱ぎ猫足の浴槽にお湯を浸し、体を沈めると心が休まった。  明日は置き手紙でも置いて、ここを去ったほうが良いだろう。  それにしても、脇腹の刺し傷はすっかり癒えていて跡形もなくなくなっている。   (脇腹?)  思い出してみると、マテリオ皇子が私を刺したとすると、傷は正面からの刺し傷になっていたはずだ。  それなのに、確かに血は脇から流れていた。 (あの時、あの場に他の人がいた? その人が私を⋯⋯) 「ナタリア! あんた、またダニエルを誑かしたわね。マテリオ皇子暗殺も失敗したらしいじゃない! この役立たず!」  突然風呂場の扉が開いたかと思うと、そこにはエステルが鬼の形相で立っていた。  彼女の薄紫色の縦巻きロールは真夜中なのに健在だ。  紫色の怒りに満ちた瞳は私を睨みつけている。 (エステル・ロピアンがなぜ皇宮に?)  別段、珍しいことではない。  エステルはダニエル皇子に近づく女を決して許さなかった。  ゲームでも常に彼を監視して、彼の周りを纏わりついていた。 「申し訳ございません。任務は失敗しましたが、私はダニエル皇子は唆してません」  とにかく、彼女の怒りを鎮めようと自分の言い分を伝えたが無駄だった。  彼女の白い手が伸びてきて、私の髪を鷲掴みにした。
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