祖父母

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祖父母

 傷口はほとんど塞がってきた。  昨夜、ガーゼは傷に張り付いてしまって、剥がすのに痛みに耐える羽目になった。うん、今日はもう付けない。  出来立ての瘡蓋に引っかからないように、慎重に制服に腕を通す。  ・・・あ、勉強会のこと言わないと。  部屋を出ると、ちょうど「行ってきます」を言いに来たところらしく、鉢合わせた。 「おはよう」 「おはよう。夏休み、友達の家で勉強会しても良い?」 「・・・友達?」  何その聞いたこと無いかのような反応。確かに私の口からは何年も出ていなかった言葉なんだろうけど。 「うん、友達」 「ああ、もちろん。休みがあまり取れないから、その間ずっと1人なのもどうかと思っていたところだよ」  私が誰とも遊ばないことが大前提だな。 「うちに連れてきても良いんだよ?リビングとか、自分の部屋とか。プール使ってもいいし」 「考えておく」 「うん、行ってきます」 「・・・いってらっしゃい」  ・・・よし。 「今日は米が食べたい」  パックの麦飯を温めている間に、好物のピーマンをカットする。ピーマンは本当に切るのが楽だ。種を取りやすいし、柔らかいし。そして生で何も付けずに食べるのが一番美味しい。あと、絶対一つだと足りない。  あとは、炒り卵でも作るか。スクランブルエッグは食べられない。  今日は和風に、醤油と鰹節を和えて作る。  よし、麦飯と味噌汁(作り置き)とピーマンと炒り卵で朝食完成。  フライパンという大きな洗い物ができたけど、美味しく食べられる口の時に美味しく食べたい。食事が苦手だと尚更その誘惑には勝てない。 「ご馳走様」  第一カバンを背負って運動靴を履く。第二カバンの出番がほぼ無いのも帰宅部の良いところだ。  そしてみかと待ち合わせ。 「おはよう、ニニ。・・・」 「おはようみか」 「・・・」  なぜ傷を二度見する。 「ニニってさ、祖父母と交流ある?」 「特に無いよ」  父親の両親は遠方だし、母親は・・・遠方どころか、どうも、もとから縁が切れているらしかった。  遠方なのと、もともと今以上に父親の仕事が忙しかったこともあって、離婚の正式な報告をしに祖父母の家に連れて行かれたのが6歳になってからだった。遠出をするには、私がある程度大きくなっていないと難しかったのもあるらしい。  私は話し合いの輪には入らなかったけど、聞こえてきた会話から、母親が自身の両親とまともに連絡さえ取っていないことを知った。  父親の両親に会ったのも、それが最後だ。  まあ、あんないい加減そうな母親、縁切られてても全然おかしくないよな。 「僕も、特に無いんだよね。4人ともいるんだけど、引っ越しのたび関わらなくなって。特にお父さんの方の祖父母は、なんというか 、僕のこと忘れ形見に思ってるから」  ああ、そうかもね。 「一時期一緒に暮らしてほしいって言われたくらいなんだけど、あまりにも僕に自分たちの息子の面影を求めていて、怖くて断ったって」  それは確かに。  老い先短いから養子にしてくれとか言い出しかねない。 「だから、最初は九州に住んでた。祖父母の家は北海道だから」  あ、九州だったんだ。 「でも最終的に関東に引っ越すことになって、お母さんがかなり躊躇してた」  祖父母の執着の深さが伺える。 「で、案の定祖父母から連絡が来たみたいなんだよね」  波乱の予感しかしないな。 「また同居の話が出て、せめて遊びに来てって言われたから夏休みは北海道に行くことになった。でもニニとも予定があるから、そこは確保した。10日分」  そんなに?  ・・・もしかしたら、私も連れて行かれたかもしれないな。祖父母宅に。みかとの予定を話しておいてよかった。 「ニニとの事は、お母さんは快諾してくれたけど、ちゃんと予定通りに祖父母が僕を家に返してくれるか心配みたい」  さっきから話を聞いてる限り、信頼がひとかけらもない気がするんだけど。 「まあ、お母さんがどうしても行かないといけない出張があった時、小さい僕を預けたらもう少し、もう少しって、出張終わった後も返そうとしなかったから警戒してるんだろうね」  あ、やっぱり前科があった。 「僕は家に帰りたかったから、小窓から抜け出したよ。高さがあって怪我したけど。でも、一歩遅くてお母さんがドアを蹴破った後だった」  ・・・。  母親って強いんだな。  とだけ思っておこう。    
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