アンリーシュ

旅行

　千葉の某テーマパークも投票できるように、「条件」を少し変えてほしい───
　一部の生徒（特に女子）が、教師たちにそんな打診をしているらしい。
　もちろんこれは、みかから聞いた話だ。
　どこから仕入れてくるんだか。
「千葉も範囲に入れたら、みんなそれを投票する気がする」
　まあ、そうだろうね。
　それか東京のゴミゴミした所。
「僕、美術館に行きたいな。お母さんに調べてもらったら、割と近くに大きい美術館があるみたいだね。・・・多分いけないだろけど」
「そこ、小学生の頃に行った。校外学習ではないけど」
　美術館とか博物館とか、ことあるごとに行ってる気がする。
「みかは美術館が好きなの？」
「うん！日本だけじゃなくて、海外の美術館も行ってみたい！」
　お父さんも若い頃はよく行ってたって聞いたな。
　何でも、母親と会った時も海外旅行中だったとか。お互いに旅行が好きだったらしい。
　・・・・。

　旅行で思い出した。
　久々にあの部屋に入ってみるか。
　いや、正確には侵入疑惑があった時、全部の部屋を確認したから、その時に何年振りかに入ってはいたけど。
　その一室は、父親が言うには元々母親が使っていたものだ。
　結婚式の写真とか、母親が残していった捨てがたいもの、その他の思い出の品々は全部ここに入っている。5、6歳になって、母親のことをすっかり忘れていたころの私が、とにかく「他人」のものがあることに嫌がったかららしい。
　棚とクローゼットがあるだけの部屋だ。
　よくわからない絵画が飾られている。これも旅先で買ったらしい。
　アルバムは、私と母親が写っているもの以外に旅行先のものもあって、かなりの量だ。
『Happy Wedding』
　ハッピーねえ・・・。
　結婚式の時の写真だけの、薄いアルバムだ。
「こんな顔だったけ」
　後ろ姿しか思い浮かばなかったのもあるけれど、写真の母親は記憶のぼんやりした母親とは、あまり重ならない。
　こうして見ると、私は割と母親に似ている気がする。
　他のアルバムには、見たことのない街並みや、壮大な自然の中に写る若い両親の姿があった。
　現地の子供の写真や、教科書で見たことのある立派な建物の写真、民族衣装のようなものを着た人の写真もある。
「・・・万里の長城？」
　本当に色々な場所に行ってたんだな。
　随分アウトドア派だったみたいだけど、娘の私は海外どころか、旅行にも大して行った記憶がない。
　母親がいた頃はほとんど家で過ごしていたし、父子家庭になってからも、父親の仕事の忙しさは変わらなかった。
　旅行の思い出となると、浮かんでくるのは学校行事だ。それも、班行動は無視し無視され、先生に怒られないようにとりあえず一緒にいただけで、一言も話さず終わった。
「今度の校外学習はどうなることやら」　
　行き先は夏休み前に決まるのか、それとも２学期になってから発表されるのか・・・。
　流石に宿泊はしないよな。いや、することになるのか？某テーマパークが許可されたら絶対に泊まりになる。
「・・・」
　何にせよ、私の楽しめるところじゃないだろうな。