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勉強会
みかと約束した勉強会は、夏休みが始まって3日目だった。
まだ自主学習2ページと、各教科の夏休みのワークを2ページずつ進めただけだ。
『ニニ、僕の家覚えてる?覚えてなかったら、どこかで待ち合わせてから行く?』
この炎天下で待ち合わせをさせるのは申し訳ない。
ぼんやりとしか覚えていないけど、「寺村」は多分、この辺りにみかだけだろう。
お父さんが仕事に行く時間と、私がみかの家に行く時間は同じくらいだった。
同じタイミングで家を出て、お父さんはわざわざ私を見送る。
「それじゃ、気をつけて行っておいで。楽しんでね。あ、友達うちに連れてきてもいいんだよ?大したものは無いけど…ほら、海外行った時の写真とか変なものならいろいろあるから。…あ、中学生はゲームとかがいいのかな。買う?」
無駄遣いにも程があるだろ。その1ミリの可能性もない中学生の訪問だけにいくら使う気だ。
「大丈夫。行ってきます」
課題と、飲み物が入ったリュックを背負って、日傘をさしてみかの家まで歩く。
私はぎりぎり自転車で通学できる範囲だけど、「念の為」で許可証をもらっただけで、実際に自転車で学校に行ったことはほぼ無い。
みかの家に自転車を置ける場所があるかもわからないし、学校よりも断然近いから、歩いていく。何より、日傘をさしたくてたまらない。
蝉の音がする。人の声より、全然騒がしくない。
近所の公園は、しばらくは平日も、遊び場ではなく「集まってゲームをする場所」と化す。外でもゲームなのか。あいつら。
なんとなく頭に残る道を通って、表札を見ていく。確か、あの辺り・・・あった。
インターホンを押すと、そのままみかが玄関から顔を出した。
「いらっしゃい、ニニ。入って涼んで」
「お邪魔します」
みかの母親も、仕事だろう。クーラーのうなる音と、時計の音だけが聞こえる。
「リビングが広いから、そこでやろう。大丈夫?寒くない?」
「うん、大丈夫」
誰かの家に来るなんて、本当に久しぶりだ。
みかの家のリビングは、うちと広さは殆ど変わらないように見えるのに、何故か明るく感じた。
テーブルの上には、写真立てがあった。思わず、顔を背けた。
おそらく妊婦と、その夫らしき人が笑っている。
もちろん口に出しはしないけれど、妊婦は苦手だ。命を宿して、それを抱擁する姿が、私の知る人間とは離れすぎていて、生理的に受け付けない。
「あ、それどかすね。僕のお父さんとお母さんの、昔の写真なんだ」
・・・足して割ったらみかって感じだな。
みかは写真立てを、棚の空いているスペースに置いた。
よくよく見れば、この空間には写真がたくさんある。どれもみかが写っているものだ。
みかは昔からみかって顔してたんだな。
「よし!とりあえず午前中は勉強して・・・午後のことは、後から考えよう。帰っても良いし、お昼ご飯食べて、続きしても良いし。遊んでも良いし」
「私、水しか持ってきてないけど」
そういえば、学校での口約束だけで、なんとも無計画な勉強会だったな、これ。
「大丈夫!夏休みはいつも1人でご飯食べることになるから、お母さんがいろいろ用意してくれてるんだ。友達も一緒に食べていけば良いって」
まあ、それはその時考えるか。
「ニニは今日の分の自主学習やった?」
「これから」
「そっか。僕は国語のワークやるね。夏休み用のやつ。苦手だから先に終わらせないと」
私は・・・地理でもやるか。
持ってきた教科書を広げて、どのページをまとめるかパラパラめくっていると、早速みかが話しかけてきた。
「ニニ、これ、わかる・・・?」
あ?どれ?
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