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誰だこの人。
本当に、見覚えが無かった。
中性的な顔立ちで、身長は私と同じくらい。男子の中では低い方。他の男子の「短髪」よりかは、少し髪が長い気がする。先生によっては、「中途半端だから切ったら?」って言いそうな。
・・・本当に誰?
クラスメートとさえ話す機会は皆無だけど、流石に顔ぶれは覚えている。でも、その中で、どれとも当てはまらなかった。
教室間違えた?
私が?この男子が?
「本当にわからない?」
私はグキッとやりそうなくらいコクコク首を縦に振った。
そんな切なそうな顔されても、知らんもんは知らん。
「そっか・・・。僕は寺村みか。みかって呼んで」
・・・うん、やっぱり知らん。
隣のクラスでも聞いたことない名前なんだけど。
「・・・まだわからない?」
わからん。
「転校してきたんだよ」
転校生って1人で誰もいない教室で待機してるものなの?
「一応、一昨日からクラスの一員なんだけど・・・」
・・・え、一昨日から?
そう言われて、やっと思い出した。
そういえば、いたかもしれない。自己紹介をしていたような。
薄情だと言われても仕方がないけど、ちゃんと理由はある。
転校生っていうのは、初日はほぼ全員で囲むものだ。私がその輪に入ろうものなら、必ず何人かに
「ヤバ、目合っちゃった」とか言われる。それで「あ、あの子には話しかけないほうがいいよ」とか転校生に言われても困る。
いや、話しかけてくれなくて全然構わないんだけど。
・・・でも今話しかけられてるんだよな。
「ごめん、今思い出した。よろしく、みか」
「うん、よろしく。西谷さんだよね」
ここで会話を終わらせるべきか・・・うーん。
少し迷ったけど、良い切り上げ方がわからなかった。
「うん。朝早いんだね」
まさか先を越されるとは。
「まだ話したことないから、西谷さんと話しておきたいなって」
「・・・へえ」
偶然会っただけかと思ってたけど、避けられないことだったか。
にしても律儀。
「みんな、西谷さんには気をつけたほうが良いって言うから、気になった」
あ、もう言われてた。
んで、気をつけろって言われたのに二人きりのときに話しかけてくるのか。
「西谷さん、全然人と話さないんだね」
「小学生の時から、暗黙の了解みたいに言われてるんだよ。私の名前を呼んだり、話しかけたりすると私に怒鳴られるって。弟妹いる人が下の学年の子にも言ったみたいで、後輩たちも同じこと言ってるよ。もちろん隣の小学校から入った中学生も」
「それ、本当なの?」
「間違ってはいないと思うよ」
それでもミカは疑わしげな顔をしていた。
この件に関してこれ以上話を広げるつもりはない。そもそもそれどころじゃない。
今一番の悩みは、それに関する別のことなのだ。
「そうなの?」
「うん、そう」
最初は「噂だろ」ってなるみたいだけど、私が本当に誰とも話さないし話しかけられないから、すっかり信憑性が増したらしい。
「西谷さんは、それでいいの?」
「別に、友達いなくて困ったこと無いしね」
「悩んでないの?」
「うん」
「友達欲しくならない?」
「うん」
学校でできるなら考えるけど、そうじゃないならわざわざ学校の外で作ろうとも思わない。
まあ、話しかけられたらってところかな。
・・・ミカは、正直まだわからないけど。
「・・・名前を言うのも駄目みたいだけど、下の名前教えてくれるの?クラスの人は教えてくれなかった」
「・・・教えない」
自分の名前なんて、口にするだけで嫌気が差す。
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