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夏休みの話
休み時間になり、いつものようにみかが話しかけてきた。
「投票の条件読んできた」
へえ。
「神奈川と千葉を除いた関東地方内だって。一部の人が『あのテーマパークは行けないの?』って言ってた」
うん、想像がつく。行かなくていい。
「いくつ投票してもいいけど、同じものを2回書くなって。まあ、その条件に合っても行けない所は行けないだろうけど・・・。僕はまだ、この辺りに何あるのか知らないからな。ニニはどこ行きたい?」
「単独行動が許されて、人混みから外れたところに休憩スペースがあるならどこでも」
「ありそうな、なさそうな・・・」
だよね。
校外学習なんて、大抵は班行動だし。
プリント持たされて、メモした内容を後でまとめたり作文書いたりして提出することになるだろうし。
で、こういう時は班の組み方が大体「好きに組んでいいよー」って言われる。
それで仮に一人になったところで、そのまま1人で行動させてくれるなら文句は言わない。でも、そうじゃない。どこかしらかの班に突っ込まれるのが常だ。
まあ、今回はみかがいるからなんとかなるか。少なくとも、気の合わない人たちの固まりに入る必要は無くなりそうだから。
「日程は夏休み明けになりそうだって。その頃なら暑さも落ち着いてるだろうからって」
どうだろうね。
「でも、その前に夏休み明けのテストがあるからなー」
「テストはどうにでもなるでしょ」
むしろ、授業より好きだ。話すことも無く、よって騒がしくもなく、ただ既に勉強した内容を解いていくだけ。
私はスマートフォンはまだ持ってない。遊ぶ友達もいない。勉強中に誘惑なんてひとかけらも混じらない。
「まあ、勉強しておけばいいだけだよね。・・・でも、夏休み中それだけだとつまらないと思う」
少し目をパチパチしながら、私の方をじっと見た。
うん、何か言いたいことがあるんだな。
「夏休み、一緒に遊ばない?」
そんな誘いを受けたのは初めてだ。
夏休みという、余裕のある(そう思ってればあっという間に無くなる)時に遊ぶのは、それ以外で遊ぶ時と何か変わるのか。
・・・遠出するとか?
「遊ぶって何をするの?」
公共交通機関を使うとか、家に泊まるとか、遊園地に行くとか(行ったことがないから興味はあるけど)なら無しだ。
あと、ショッピングモールとかも。
「勉強会とか?僕の家で!お母さんの夏休み短いから、殆ど1人なんだ」
「それは私も」
事前にどの期間休むのか、申請しないといけないらしい。
「どう?勉強会」
「お父さんが良いって言えば」
家にいないとはいえ、連絡手段を持たない私は勝手に外出するわけにはいかない。
「そうだよね。夏休みまでまだ時間あるし、聞いてみて」
昨日のこともあって、少し警戒しながら家まで帰った。
流石に2日連続で来ることはないか。今まで、ずっと来てなかったんだから。
「・・・」
〈今全部話せないなら話さないでね〉
みかに話したい、と少し思いながらも、同時に本人に言われた言葉を思い出す。
全部?
どこまでが全部?
あの事と、あの事と、あの事と、あの事と、
「2345・・・6?」
何年かかるかわからないけど、とか。
どうせ3年になれば、あの事は必然的にバレるだろうし。
そうしたら、他のことも芋づる式にわかる。その時こそ、誤解を与えてしまう時だ。全部細かく話さないといけなくなる。
「どうしようかな」
話すのは別にいい。
だけど、話す間、思い出すあの時間は苦痛だ。
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