消したくない、君を

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 まもなく夜が明ける。 『彼女』の処置の方法を決断しなくてはいけない。  記憶を消して、まっさらな人間にするか。  記憶を消さずに、苦しみ続ける人間にするか。  それともこのまま……。  だめだ。俺にはとてもじゃない、決断なんてできない。  ふと、『彼女』が大人しいことに気がついた。 『彼女』を見ると、憎しみに歪んだ表情のままこちらを睨んでいた。  ごめん。  憎悪しか生まれない『魔物』のままだなんてあり得ないし、人間に戻った時に例え法律上は許されても、自分が何をしてきたかを認識しようものなら生きていけないよな。  記憶を全部消す、この一択だ。 『彼女』には親や友人など、支えてくれる人がいる。  何事もなかったかのように生きて、幸せに暮らしてくれたらそれでいい。  それに、記憶を消せばそれはもう俺が愛した『彼女』じゃないし、新しい人生に割り込む必要なんて無い。  また、俺と出会って恋に落ちるなんて夢物語だ。  俺さえ、俺さえ我慢すれば……。  ……? 『彼女』が何かを言っている?  声にはなっていないが、一生懸命口を動かしている。  唇を読むのは得意ではないが……  あ、俺の名前だ。
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