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「……え?」
思わず耳を疑う。
『彼女』が俺の前に回り込み、泣きそうな顔で俺の顔を覗き込む。
「一目惚れした相手が本当は恋人だったなんて、どれだけ嬉しかったかわかる?そしてその人に私の存在を消されて、拒絶されて……どれだけ悲しかったかわかる?」
拒絶なんてしたくてしたわけではない。
でも万が一奇跡とやらが起きて俺のことを思い出せば、必ず『魔物』だった頃の事も思い出すだろう。
魔法だって、完璧ではない。
人が扱うものは、いつだって想定外が起こる。
だから『魔物』と関係のある俺とは距離を取るべきなのに……。
「お願い。それでも私を拒絶するなら、そう言って。もう一度魔法使いにお願いして、今のこの想いを消してもらうから。
だけど、私の過去を承知の上で受け入れてくれるなら……ぎゅっと抱きしめて」
『彼女』が俺の目の前で小さな身体を震わし、俯く。
この強引さ、記憶を失っていても間違いなく『彼女』だ。
俺が会いたくて、触れたくて、ずっと探し求めていた『彼女』。
耐えきれなくなり、俺は『彼女』を抱きしめる。
涙を見せないように、ぎゅっと力強く。
わかった、観念するよ。
君が犯した所業が罪として裁かれなくても、二人で一緒に償おう。
もし君が犯した罪を思い出したなら、俺が君を支えよう。
だからもう、俺から離れるな。
俺ももう君を離さないから……。
『彼女』も俺の気持ちに応えるかのように俺の背中に手を回し、力一杯抱きしめる。
コンコン。
控え室のドアをノックする音が聞こえた。
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