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勇者が亡くなってから百年後の深夜。女は王都にある墓地の一角に居た。
「ようやく貴方の全てを消せました」
名の刻まれていない墓に花を供え、慈しむように撫でる。
「大変だったんですよ……まぁ、約束なのでちゃんと守りましたけど」
口を尖らせ不満ありげな顔をするが、ほんの数秒のこと。「なんてね」と呟くと木漏れ日のような柔らかな笑みを浮かべた。
「貴方に言われるまで気づけませんでした。魔王討伐の任務なんてこの世界で生きる者にとって非常に栄誉あることでしたから」
『勇者は魔王を討伐するものだってこの国の皆の考えも分からなくはないよ……やってることは拉致紛いな事だけどこれほど逼迫した生存競争に倫理観とかは一旦置いておく必要があることも分かるし納得はした……』
『ただ、なんで俺だったのかなって思うんだ。実はこれはリアルな夢で目が覚めたら母ちゃんのメシを食って、学校に行けばいつも通り友達と馬鹿やれる……なんて旅に出て随分経つのに未だに思ってしまうんだ』
「貴方はただなんとなく溢しただけかもしれませんが、勇者召喚は神聖な儀式だと思ってた私には結構な衝撃だったんですよ? 衝撃といえばそうだ! あの時は年甲斐もなく吃驚しちゃいましたよ」
『あ、そうだ勇者。魔王を討伐した後はどうするの?』
『魔王討伐に成功したらか……うーん、そうだな。元の世界には帰れないし一つだけ頼んでも良いかな? 俺がこの世界で生きた記録を一つ残らず消し去って欲しいんだ。そうすれば勇者の価値は下がるし勇者召喚なんてする気にならないだろう?』
『それは別に良いけど……魔王討伐に関してはどう説明するつもり?』
『君が仕留めたことに……は出来ないか。流石に王家への報告書に虚偽を書くわけにもいかないしな』
『まぁ、それは勝ってから考えましょ』
「まさか魔王を討伐して二週間もしない内にぽこっと逝っちゃうとはね……報告書を書いてる途中だったってのに。これで私が勇者の活躍を誇張して書いてたらどうするつもりだったんだか」
女は短く溜息を吐くと墓を見つめ
「だいぶ遅くなっちゃいましたけど……安心してください。もう勇者召喚は金輪際起きません。だから……安らかにお眠りください」
そう告げると女は墓を後にした。
数日後、王都にて賢者の死を知らせる号外が配られた。勇者を知るものはもう居ない。
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