井戸神さまの思し召し

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 お揃いの浴衣を着た元恋人の敬太と友人の葵が、今生の別れの様にいちゃついた後で男湯と女湯へ入って行った。  やっぱり、二人は付き合っていた。  葵のSNSで匂わせ投稿を見た時、薄々感じていた二人の浮気。  気分転換に一人旅をと、ちょと奮発して予約した温泉旅館だったのに、何で一緒になっちゃうのだろう。私が知らぬ顔で温泉に入って行ったら、葵はどんな顔をするのだろうか。 「言い訳も彼氏自慢も聞きたく無いや」  窓ガラスに映った自分があまりにも悲しくて、踵を返した。  自分を励ましてどうにか立ち上がった所を思いっきり鈍器で殴られたみたい。 「何なの……」  次から次へと涙が湧いて出て来る。たまらずギュッとバスタオルを顔に押し付けた。  遠くから子供のはしゃぐ声とそれを注意する親達の声が聞こえ、側の中庭に逃げ込むと春の匂いがした。  中庭はイルミネーションで彩られ、流れ星がキラキラと木々の間を抜けていく。足元の小道をウサギが飛び跳ね、リスが駆け回る。涙で滲んだ目で見なければ、この景色はもっと美しいはずだ。
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