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きゃんでぃーあらうんど
背中に当たる肌が、ひどく熱かった。ゆるゆると腹の奥を舐る熱も、胸を抱え込む腕も、すべてが熱い。
「あっ…あ、……ロ…イ、も…抜ぃ…て」
「まだ、もう少しだけ、ね?」
寝台の上、敷布に顔を埋めたままのハーヴィーの耳元に、ロイクの熱い吐息が掛かる。情欲に濡れた声に、ハーヴィーはふるりと背を震わせた。
『Nice Palais de la Masséna Hotel & Spa』から北へ五キロほど。閑静な別荘地の一角に建つ一軒家が、ふたりの住む家だ。
「無理……だ…」
「君の中は、僕を離したくないって」
腹の奥をせり上がる熱が内臓を押し上げる。すでに最奥の襞へと張り付いた質量が僅かに増した気がする。
「っあ、動かな…っで…ッ」
「それこそ無理なお願いだよハーヴィー?」
くすりと笑うロイクが一度も達していない事は、ハーヴィーが良く知っている。もちろん、そのまま終われるはずがないという事も。
「も、出して……ロイ…」
囁くような声に呼応するかのようにロイクがゆっくりと腰を引く。引いていく熱に擦られた粘膜から広がる快感に、ハーヴィーはぞくりと肌を粟立たせた。
◇ ◆ ◇
温かな手に髪を撫でられ、ハーヴィーが重い目蓋をうっすらと持ち上げれば微かな水音ともに額に口づけられる。
「おはよう、可愛い僕のハーヴィー。昨夜は気持ち良かったかい?」
「……朝から悪趣味な質問をするな馬鹿者…」
低く罵れば微かな笑い声が聞こえてくる。それが、どこか満足そうに聞こえてハーヴィーはふぃと顔を背けた。
「今日は、どこへ行こうか」
長い指が擽る耳元に聞こえてきた声にごそりと寝返りを打つ。すぐそばに覗き込む碧い瞳が、穏やかな色を浮かべてハーヴィーを映し出した。
「買い物に付き合ってくれないか」
「もちろんだよ。時間が合う時はいつも一緒に行ってるだろう?」
どうしてそんな事をわざわざ聞くのかと、首を傾げるロイクへと曖昧に応えてハーヴィーは寝台の上に躰を起こした。組んだ手を高くあげて伸びをする。
そのまま前にぱたりと倒れたハーヴィーの背中を大きな手でゆるりと撫でて、ロイクは寝台を降りた。
「コーヒーでいいかい?」
「ああ、頼む」
くぐもった声のハーヴィーをちらりと見遣り、ロイクは寝室を出ていった。
ハーヴィーが朝のストレッチを終えてリビングへと顔を出せば、開け放った窓から入り込んだ清々しい空気が部屋に満ちていた。
二人掛けの大きすぎないテーブルの上に置かれたマグカップを取りあげる。行儀悪くカップに口をつけながらロイクの隣へ立てば、逞しい腕がするりと腰に巻きついた。
「朝食が待ちきれなかったのかな?」
「そういう事にしておこうか」
さらりとハーヴィーが答えれば、腰に回された腕に力がこもった。思いのほか強いその力に苦笑が漏れる。
「痛い」
「君が素直になってくれないから」
「あなたこそ、たまには素直に喜んでみせたらどうだ」
「僕はいつだって素直に行動しているよ。今だってほら、君にこうして触れてるじゃないか」
「それなら私も同じだ」
「君の気持が分からないと僕は不安になるんだよ」
いったいどの口が不安などと宣うのかと、ハーヴィーが見上げたロイクの顔には、案の定不安の”ふ”の字さえも浮かんではいない。心なしかニヤけたその顔を見つめていれば、あっという間にこつりと額がくっつく。
「今日も素敵だよ、僕の可愛いハーヴィー」
歯の浮くような台詞をさらりと吐いて微笑むロイクの頬へと口づけた。
「愛してる、ロイ」
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