お手紙ありがとう

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 2.「整理方法」には、手紙それぞれをコンパクトに圧縮する方法があります。  つまり、紙は薄手に、文章は要点のみの短いものを。  カラフルな色や凝った柄は容量を食うのでモノクロへ移行。そして妙にかさばる規定外の形や大きさの紙は控えること。  カレンダーの裏なんて論外だ。一枚が分厚いしでかいし、下手くそな字をそれに十数字しか書かずに枚数を嵩ませるなんて。  弟君に言っても無駄、というか、返事を出す、というか読む気すらしないので、小弥太は拒否届を出した。郵便屋さんに届け出ると、ポストに入れる前に廃棄してくれるそうだ。  もちろん麗子には言い訳をする。ポストが満杯になって詰まって届かないのだと。あながち嘘じゃない。  それでも、また詰まった。  言ったんだ、いや書いたんだ、ちゃんと。  ーー君のそういうアーティスティックなセンスは大好きだけど、そのせいで届かなくなることがあるんだって。 「これから仕事いってきます」 「今日のお昼ご飯はハンバーグ食べたわ」 「おはよう。こんにちは。こんばんは」 「どうして返事をくれないの?」  麗子は毎週水曜という約束など全く忘れてしまったようで、都度都度どうでもいい報告のような手紙を送り付けてくるようになった。小弥太の返事の頻度が減ったので、不安になったのかもしれない。  詰まったポストの中身を引っ張り出し、その鶴に折った封筒のしっぽが千切れたとき、小弥太の頭の奥でも「ふつり」と何かが切れた音がした。  弟君の力になれなかった……というより、その気にもなれなかった後ろめたさがチリツモ、限度を超えたようだった。  小弥太は長い長い手紙を書いた。内容は何でも構わなかった。どうせ届かないのだから。  手近にあったブルーレイの取説を開き、頭からそれを書き写しただけだ。般若心経や源氏物語でもよかった。とにかく長ければ長いほど。  封筒は、彼女の好きそうな包装に凝る。  切り紙にしたり、色とりどりの紙吹雪を貼り付けたり、複雑な折り目をつけてみたり。  そしてダメ押し。  
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