お手紙ありがとう

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 3.セキュリティ条件を満たさないものは送り返され、また送り直すという手間と時間と容量を食うので、最低限の確認を。  それは、年配の人間に多い再配による容量の無駄遣い原因だと、以前恩師からの再々再々配達を受けて知った。  恩師に悪気はない。  ただ、自分らが当たり前のように過ごした日々の習慣から抜けていない。彼は小弥太の小学生の時の担任で、よく面倒を見てもらったし、勇気も励ましももらい、尊敬している相手だ。年賀状は必ず出す。  が、年賀状……そういった季節柄のポスト詰まりの氾濫期というのもあって。  恩師は墨絵が趣味で、金箔を施し、達筆で芸術のような賀状を毎年送ってくれるのだけど。  いかんせんポストが手狭になる時期で、その上彼には「個人情報」という観念が抜け落ちている。今や、宛名や差出情報はシールでカバー、郵便屋さんはそれを特殊な光線で読み取るというシステムが出来上がっていることを、恩師は理解できない年頃である。  そして、その「セキュリティ条件」で引っかかって再配に次ぐ再配となると、その旨の勧告紙が貼り重ねられてゆき、どんどん分厚くなるわけで。  それでも小弥太は、年に一度の恩師の、かつてと変わらぬ威厳と優しさをたたえた葉書を楽しみにしていた。だから、たとえ容量の無駄だと言われようが何だろうが、敢えて何も告げず受け入れていた。  そしてそのことが、小弥太にヒントをくれた。  いくらメールより手紙の方が温かみや人間らしさが感じられると言っても、そしてそういうものが恋愛に花を添えるだろうことは明らかだとしても。  メールアドレスを教えなかったのは幸いだった。  手紙であれだけの煩わしさだ。メールだったら一体どうなってたことか。  小弥太は麗子への手紙を、切り紙や色味や頻度、量を過度な形で大量に送った。そして更に恩師のようにセキュリティ破りを繰り返す。  やがて。  彼女からはパッタリ手紙が途絶えた。  
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