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「ああ〜お腹すいた」
彼女とのデート中、ついうっかり言ってはいけないことを言ってしまった。
禁断のセリフだ。
彼女の目つきが変わった。
「え?ほんと?」
やばい。これはやばい。
「あ、いや、どうかな、えっと、すいたかな、と思ったけどそうでもないような…」
なんとかごまかそうとする。
でも彼女の目はもうギラギラと輝いている。
悪魔の輝きだ。
「うちへ来てよ、なんか作るよ」
「あ、いや、たしか今日用事が…」
「新鮮な野菜買ってあるのよ、さあて、なんにしようかな…」
もう僕のことなんか目に入ってないようだ。
彼女は大の料理好きだ。それは間違いない。
しかし好きと上手は違う。彼女はこの世のものとは思えないとんでもない味の料理を作ってしまう。
今日も僕の抵抗も虚しく、信じられない怪力で腕を掴まれ彼女が住むアパートへ連れて行かれた。
彼女の冷蔵庫には新鮮な野菜がたくさんあった。ほんとうに美味しそうな野菜たち。そしてそれに対抗するようにキッチンに並ぶ、訳のわからない調味料や香辛料たち。
これからあの野菜たち、そのまま食べたらきっと美味しいであろう野菜たちと調味料や香辛料がバトルし、とんでもないものが出来上がるに違いない。
仕方ない、今日は我慢するか、と一瞬思った。
でもやっぱりダメだ。今日はいつもよりはるかにテンションが高い。とんでもないものができるのは間違いない。
ここはもう賭けに出るしかない。
僕は野菜を切りはじめた彼女のところへ行き、後ろから彼女を抱きしめて耳元で囁いた。
「ねえ…食べる前にさ…しようよ」
「え?」
「したいんだ…いいだろう」
「食べてからでいいでしょ?」
「いや、もう我慢できない…ね?いいだろ?」
「うん…まあいいけど…」
彼女も満更でもなさそうだった。
僕の方を向かせてキスをすると、彼女はそのまま体をあずけてきた。
僕は彼女の体を抱きかかえ、ベッドに運んでいった。
さて、ここからだ。
彼女を満足させて一息ついたところでどさくさに紛れて逃げ出せるか、それともベッドでも彼女に負けたうえ料理を食べさせられ、胃腸を崩壊してしまうか、勝負はこれからなのだ。
THE END
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