悪質クレーマー、腹が減る

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 それから数日後。  男の中である異変が起きた。  午前中、仕事をしていると急激に腹が減ってきたのである。  腕時計の針は10時30分を示している。  昼にはまだ早い時間帯だ。  にも関わらず、男は空腹感に苛まれた。 (なんだ? やけに腹が減る……)  不思議でならなかった。  朝食はしっかりと取った。  朝7時に起き、いつものようにトースト2枚とベーコンエッグ、それにインスタントコーヒーを口に入れた。  育ち盛りの若者ならいざ知らず、男は今年で50になる。普段ならこれだけで十分な量である。  わけのわからない空腹感を抱えながら、男は仕事を進めていった。  昼の12時になると、男はすぐに会社を出て行きつけの食堂へ向かった。  そこも彼がボロクソに書いた店である。  その影響があったかどうかは不明だが、いつもその食堂は空いていた。 「Aランチ特盛で」  男は席に着くなりメニューも見ずにすぐに注文した。  従業員は「かしこまりました」と言って水の入ったコップを置いて引っ込む。  ランチが出て来るまでの数分。  それが男にとっては耐え難い苦痛だった。 (うう、腹が減った……。だがあと少しの辛抱だ)  しかしいつまで経っても料理は来なかった。  いつもなら5分ほどで来るAランチである。  どうなっているのか。 「おい」  男は声をかけた。  店員は現れない。 「おい!」  男は再度声をかけた。  店員はまだ現れない。 「おい! 客が呼んでるんだ、返事しろ!」  ついに男はキレて厨房に顔を出した。  するとそこには、料理どころか何も準備していない従業員が恨めしそうに男を睨んでいた。  男は一瞬たじろぐも、すぐにいつものように虚勢を張った。 「どうなってるんだ! オレはAランチを頼んだんだぞ!? 全然作ってないじゃないか!」  従業員はやれやれという顔をしながら言った。 「残念ですがお客様。当店ではお客様に“クソ不味い飯”を食べさせるわけには参りませんので、お出しできません」 「何を言ってるんだ」  言いつつ男はハッとする。  そういえばこの店の書き込みで「クソ不味い飯」と書いたのを思い出したのだ。 「申し訳ございません。当店の料理でお客様に不愉快な思いをさせてしまいまして」 「別にそれはいい。早くAランチを出せ」 「お客様に満足していただける料理はお出しできません」  結局、その食堂では何を言っても料理を出してくれなかった。  頭にきた男は 「この店のこと、ネットに書き込んでやるからな! 覚悟しとけ!」  と言って店を出た。
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