悪質クレーマー、腹が減る

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 10分も昼休みをロスした男は、別の食堂に向かった。 「唐揚げ定食、大盛で」  しかしそこでも店主が男に向かって言った。 「すいません。貧相な唐揚げをお客様にお出しすることはできませんので」 「何を言ってるんだ」 「当店はお客様の声が第一。貧相な唐揚げはさすがに失礼にあたるかと」 「それはいい。唐揚げ定食だ」 「よそを当たってください」  男は行く先々で体よく注文を断られた。  どこもストレス発散のためにボロクソに書いた店だった。  不思議だったのは、なぜか彼らが自分の書き込みを知っていることである。  書き込みをしたのは匿名の掲示板だったはずである。  スマホを取り出した男は「あ!」と小さく声をあげた。  自分が書いた評価の欄。  そこに書き込みをした男の顔写真がでかでかと載っていたのである。 「ど、どういうことだ。これは」  しかも男が行ってきた悪行の数々まで詳細につづられている。  そして最後に※印で 『今後、この掲示板を利用される方は、内容に関わらず顔写真が掲載されます』  と書かれていた。  プライバシーの侵害どころではない、もはや犯罪である。  だが男は戦慄した。  自分が書き込んだ店の悪評。  そのすべてがほとんどこの近辺の店である。  つまり、自分はどこへも行くことができない。  男は観念してコンビニに立ち寄った。  しかしそこでも 「お客様にお売りできるものはございません」  と断られた。  なぜか男は悪質なクレーマーと周知されていたのだった。
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