伊地知鷹音という男

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「そう……ですか。でも、俺、兄とは離れてから一度も会ってないんですよ」  仲がいいとはどういうことだろうか。あの事故があってから一度も会っていないのに。 「初音は仲がいいと言っていた。それだけだ」  この人は真実を知っている。そう気が付いた。俺たちが血の繋がらない兄弟であることを。  真実を知っていながら『兄弟』と言った。 「兄は……俺が分からないと思います。だけど、俺は分かるから……。そう、仲がいいって……」  離れる前。俺たち4人は本当に仲が良かった。  今もそれは変わらず想っていてくれているということ。 「名乗らないのか?」  挑発的な視線。 「いつか、自分で会いに行きます」  今回のことが自分の中で整理できたら自分の意思で会いに行きたい。 「そうか」  空也は笑って机に向き直った。  兄はきっとあの人を信頼している。  あの人に守られている。  そしてあの人は兄を大事にしている。  すごくそれが伝わってきた。  休憩が済み、さらに厳選された役員だけが残された会議室に兄は現われた。  息を呑んだ。  父に……誠さんに本当によく似ている。
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