伊地知鷹音という男

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 誰の意見でも取り入れ、時にはバイトから上がった企画までも採用する。  まだ若干34歳のこの男。  ヤル気に満ちているとも思えないのんびりとした風貌。  だけど、全力で社員を守り、会社を奮起させている。  何が引きつけているのか、理由は分からない。  だけど、引き付けられて止まない。  答えは分かっている。  惚れているのだ。  恋ではない。  この男を支え、社員を支え、会社を支えていくことに遣り甲斐を感じている。  苦手だと感じていたのは明らかに自分がこの男に惹かれるということを悟っていたからだ。  これまで兄の身代わり、兄が帰ってくるまでの代わりと自分を蔑み、いつか渡すであろう自分の立場に脅えていた。  兄と再会した日。  真実を知った日。  俺は変わった。  日の当る、自分の自由にできる毎日を手に入れた。  それは、今も手を伸ばして笑うこの男の手によるものだ。 「おいで。鷹、行こう」  もっと上を目指そうと俺を誘う。  兄を超える。須藤を超える。  俺は……この男に惚れている。
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