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奇跡的に助かった俺と妹。意識不明の重体で数日後に父は息を引き取った。
俺と妹はお婆さんに引き取られた。
大地主で観光ホテルも担う伊地知家は裕福で俺たちは何不自由なくのびのびと育てられた。親戚は多くて、何かにつけて嫌味を言う大人もいたけど、その度にお婆さんは俺たちを庇ってくれた。
戸籍上、俺は伊地知家の当主直系の男児だ。後継者としての声も高く上げられていた。
その声を聞くたび、お婆さんに庇われるたび、俺の心には深く濃い闇が広がって行った。
憂さ晴らしをするために高校時代はほとんど家に帰らず、バイトと友達の家を亘り歩き、警察沙汰になるような喧嘩も度々起こしていた。
妹は高校に入るとすぐに「もう戻りたくない」と言って単身アメリカに留学した。
大学を出て伊地知家関連企業に就職した矢先、お婆さんに呼び出された。
「鷹音さん。初音に……会う気は無い?」
15年もの間、会うことの無かった兄。
姉の美音は医者をしていて時折偽名を使って手紙をくれていた。
「兄に会えるんですか?」
初音という名の兄。同じ『音』の名を持つ兄妹。
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