伊地知鷹音という男

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 苦悩し、自分がここにいる理由も分からずに過してきた。  時期当主を望まれることもなく、蔑まれることもなく、ただ存在するだけの日々。実際は直系でもない全くの他人であることを知っているからこその苦悩の日々。  父にそっくりだった兄はどこかで生きている。  いつか帰って来て伊地知家を継ぐために。  俺はそれまでの留守番的な立場でしかない。  その兄にもし会うことが出来たら、俺は全てを押し付けてここから逃げたいと考えていた。 「まだ内々の話ではありますが、伊地知グループは今期を持って時谷財閥に吸収合併されます」 「え?」  寝耳に水である。俺の勤めている会社は伊地知グループの本社である。不動産と観光ホテル部門を主軸に今の社長に変わってレジャー関係の仕事も請け負うようになっていた。  レジャーは景気の悪化で下火ではあるが、事業展開をするほどの余裕があるのだろうと……見ていた。 「景気の悪化が一因であることは確かです。倒産する前に手放すことにしました」 「そ、そんな。従業員たちはどうなるんですか?」  伊地知家の抱える社員は何千人といる。それをどうする気でいるのだろうか。
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