伊地知鷹音という男

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「誠の遺言……自由にしてほしいとは、自分と同じように伊地知家に縛ってほしくないということでした。誠からすれば……私も伊地知家に縛られていたんでしょうね。だから……私はあなたに伊地知家の当主を望まなかった」 「……何で?」 「全ては誠の意思なのです。誠のように、私のように伊地知家に縛られないように……。あなたや愛音を自由にさせて育てました。決してあなたを蔑ろにしていたわけではありません」  自由に……。そう、自由に生活してきた。進路についても何も言われなかった。大学だって自分の好きなところへ行った。 「で、でも、兄は今更なんで会いに来るんですか?」 「初音はどういう経緯かは分かりませんが、時谷財閥の御曹司の海さんと空也さんと親しいようです」  海? 空也? 「私に初音と会うチャンスをくれたのです」 「チャンス?」  追い返したのなら、チャンスとは言わないのではないだろうか。お婆さんは……ずっと会いたいと願っていたと言うことだろうか。
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