伊地知鷹音という男

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 物心が付いた時には気が付いていた。  上の2人の兄妹とは血の繋がりが無いことを。  父にそっくりな姉と兄。  儚い印象を受ける色素の薄い父。  穏やかでいつも微笑んでいた。  俺とは全く似ていない。  母も穏やかな人でとても優しく、俺たち兄妹は分け隔てなく愛情を受けて育った。  それは10歳になって間もない時だった。両親と母の親友と妹の5人でなぜか父の実家に行くことになった。  向かう飛行機の中、父が、「もう分かる歳だから」と話してくれた。  父が実父ではないこと、母が実母ではないこと、そして母の親友こそが自分と妹の実母であることを。  戸籍上、父は母の親友と結婚していることになっていて、姉と兄は私生児となっているということを。  そして、今から会いに行くお婆さんは『伊地知家当主』である。  5人で行ったお婆さんの家はとても大きくて驚いた。俺と妹は大人の事情なんて言われて初めて会った母の親友の妹さんと共に別の部屋で待たされた。  あの事故からすでに15年過ぎた。あのお婆さんに会いに行った帰り道。車は事故を起こした。
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