おじさん、おじさん。

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おじさん、おじさん。

 これは、私が小学校五年生だった時の話。  今思い出しても怖いし、ものすごく混乱するから聞いて欲しい。  当時、私は地元の公立小学校に通っていた。あれはもうすぐ春休み、といった時期のこと。学校の帰りにふと、目の前をひらひらと薄紅色の花びらが舞うのを目撃したのである。 「あ」  それは、近所の公園の桜だった。そういえばお花見の時期だったなあ、と今更ながら思い出した私である。去年までは毎年一度は家族でお花見をしていたのだが、今年は父の仕事が忙しかったため自重という形になったのだった。ニュースで桜のニュースを見るたび、ちょっと残念だなと思っていたのである。  毎日この道を通って帰っているはずなのに、この公園の桜が綺麗なことにも気づいていなかった。もう花は満開に近い。ちょっともったいないことをしたなと思った記憶がある。 ――いいよね、これくらい寄り道しても。  別に買い食いをするわけじゃないし、と私は公園に足を踏み入れた。少し遠回りになるが、公園の中をぐるっと一周してから帰ろうと思ったのである。  大きな公園で、さながら神社の石畳のような道の両脇に桜が何本も植わっている。平日の夕方であるはずなのに、木の根元にはシートを敷いてどんちゃん騒ぎをしている人がたくさんいたのだった。  特に目立つのは、灰色のスーツ姿のおじさんだ。  会社の宴会でもしているのだろうか。複数の男女に囲まれて、真ん中で盆踊りのような踊りをしている。 「あーらよ、えーらよっ!ほい、ほい、ほーい!――、――――!」  何やら楽しそうだったが、酔っぱらっているらしく顔が真っ赤で呂律も回っていない。  そのため、歌っている歌の歌詞はほとんど聞き取れないものだった。 ――楽しそう。  おじさんたちの足元にはビールの空き缶やら、お菓子やらがたくさんあった。  私は小学生だから、当然お酒は飲めない。それでも、あんな風に家族や友達とはしゃいでお花見がしたかったなあ、と思う。 ――なんだかなあ。  少しだけ憂鬱な気持ちになって、私はその場を後にしたのだった。
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