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あのおじさん達は、どうして毎日お花見をしているのか。毎日同じように踊って宴会をして、退屈するようなことはないのか。
夜、自室にて。私はふと思い出して、ナオちゃんにLINEを打ったのだった。
『ねえ、ナオちゃん。家の近くに公園あるじゃん?桜の木がいっぱいある公園。あそこでさ、毎日お花見と宴会してるおじさんたちがいるんだよね。知ってた?』
彼女の家も近い。おじさんたちのことを知っていてもおかしくない。
ところが。
少し間を置いて返ってきた彼女の言葉に、私は目を見開くことになったのだった。
『え?うちの近くにそんな公園あったっけ?
それに、お花見って……もう五月も終わりなのに桜咲いてるの?』
何を言っているのか、すぐに理解できなかった。
しかし、私はスマホの日時と時計をもう一度よく確認して、はっきりと自覚することになるのである。
五月二十八日。
日付ははっきりと、そう表示されていた。
――え、え?
おかしい。
私はいつ、六年生に進級したのだっけ?
おかしい。
私はいつ、春休みを終えたのだっけ?
おかしい。
私はいつ、ゴールデンウィークを通り過ぎたのだっけ?
それから、それから、それから――あの桜があった公園の場所は、どこだったのだっけ?
「あ、あああ……!」
冗談みたいな、本当の話。気づいた途端、記憶が思い切り頭の中に流れこんできたのだった。私は確かに、終業式を終えて春休みを通り越し、始業式からの進級を経験した。それから、ゴールデンウィークだって遊びにいったではないか――液晶の向こうにいる、ナオちゃんと一緒に。
それなのにどうして、それを忘れていたのだろう?
私はいつから、今がまだ三月だと思い込んでいたのか。そして。
――五月下旬に、桜が咲いてるわけ……ない。
その日以来、私はあの公園を通ることはなくなった。否、あの公園の場所さえわからなくなったというべきか。
ただ、今でも思い出してぞっとするのである。
『じゃあまた明日ね。興味があったら、いつでもおいで』
もし私が、おじさんの誘いを受けてしまっていたら。
私も彼等と一緒に、永遠にあの場所で踊り続けていたのだろうかと。
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