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「わたし、前から気になっていたんだけど、あなたって、失業していなくても年から年中、せわしく仕事ばかり探しているように見えるの。人生は短いのよ。基本的におかしいとは思わない?あなたみたいな、それなりに有名大学を出ている者がなぜ失業するのかしら。不思議だわ、普通ならとっくに出世していてもおかしくはないのに」
彼女は易々と安岡の痛いたところを突いた。
「そんなことは、俺にもわからない。正直なところ、この先も転職を繰り返すような気がしてならない。と言っても、定年まで同じ会社で働くなんて昔のことだしな。ただ、俺の性格が欠落していることは自覚している。気分屋というか、そんな性格がだ」
安岡は、相手から痛いところを突かれると、決まって自分の弱点を曝け出す癖がついていた。それはまた巧妙な自己防衛の手段でもあったが、歳相応の慎重さが言葉の一つ一つに楔を刺すように、かつての性格の大様さも影を潜めつつあった。
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