花龍(はなりゅう) 

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「僕はこの国はとても理想的な、楽園だと思っていました。 海を山を、街を彩る四つの季節はどれも美しく、住む人々は最新の技術を持ちながら伝統を尊び、心優しい。義理、人情と言うのでしょうか、誰もがそういうものを大切にしている。 だが、実際に住んでみれば、意外にもこの国は決して住みやすい国ではなかった」 「……ふむ」 黒い瞳が今はまっすぐに僕を見ている。 僕よ頑張れ、まさに一世一代の大舞台だぜ。 きらきら光る星達が、僕を見守ってくれている。あの桜色の龍の為に戦う僕を。 「国土は広いとは言えず、更に山岳地が多い為に人が住めるエリアは限られています。 その上、地震や台風、大雨等の自然災害の脅威に常にさらされている。 他の国からわざわざやって来たのに、あまりに怖くて逃げ帰った者もいる。だけど、それを非難する気にはなりません。おかしな事ではない、と思うからです」 話している間にも、マルチビジョンに表示したアラビア数字のカウンターはどんどん上がり続けている。 「もっと暮らしやすい国を探して移住した国民もいますが、多くの人はそんな事は考えもせず、生まれ育った日本で暮らしています。 なぜならば、みんなこの国が好きだから! 今宵も日本中の人々が桜の元に集まり、この国に生まれた事を……」 「異人さんよ。分かってはおらぬな」 彼女が不意に口を挟む。僕の体は硬直する。
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