花龍(はなりゅう) 

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風光る、という言葉がぴったりな四月の晴れた日曜日。今年初めてTシャツ一枚になって、おひさまに誘われるまま僕は一人出掛けた。 桜の名所と呼ばれる場所は日本中にある。この季節、僕は可能な限り各地のそれを回るのだ。 桜以外にもいろんな花が咲いているし、枝に遊ぶ鳥達は可愛らしく、見ていて飽きない。 そして昼も夜も、様々な人々がお花見にやって来る。家族連れ、カップル、会社か何かの団体、僕と同じ様な一人者、酔っぱらい達…… 彼等の姿をベンチに座ってぼんやり眺めているだけでも、有意義な時間を過ごせるというものだ。 多くの人は花が咲いているのを見れば、綺麗だとか素敵だとか、守ってあげたいとかいう感情に駆られるのだろう。 けれど正直に言うと、昔の僕はあまり花が好きではなかった。 確かに離れて眺めれば実に可憐で美しく、広範囲に咲いている様は壮観だ。被写体としては最高さ。 だが、近くで観察すれば、植物という生き物はけっこうグロテスクじゃないか。宇宙怪獣みたいな虫だって這っているし。 花や虫が好きな方が不快に感じたなら申し訳ないが、僕は変わり者であると自覚している。世の中にはいろんな奴がいるんだ、という事で勘弁して欲しい。 それに、今は違う。 あの人に出会ってから、僕だって本当に桜が好きになったのだ。 やあ、今年も見事に咲いてくれたね。 見上げながら、そっと太い幹に手を当てて胸の中で語りかければ、風にそよぐ枝から花弁がはらりと舞った。 あの人が元気でいる事は確かだ。 また会いたい。だが、会わない方がいいのだ。 なぜかって? そりゃあ、世の中にはいろんな人がいるからね。
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