金ハ天下ノ回リ物

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金ハ天下ノ回リ物

「ねえ、舞。これ絶対に秘密なんだけどさ、同中(おなちゅう)だった片倉リノハっていたじゃん? あの子、パパ活してるらしい!!」  中庭のベンチに腰掛ける富美子が、サンドイッチを片手にはしゃいだ声を出す。私は隣に座っているクラスメイトを、唖然と見返した。 「パ、パパ活……?」 「そ。本番(オトナ)もしてるっぽい。あの子とおっさんがホテル入ってくの見た友達がいるんだ」  自分の右手からおにぎりが落ちそうになり、慌てて持ち直す。 ――パパ活をしてる? ――あの、片倉リノハが?  頭にカッと血がのぼっていく。うちの家政婦が握ってくれたおにぎりを持つ手に、必要以上に力が入った。そして、 「ごほっ!」  むせた。気管に侵入した米粒を勢いよく吐き出す。  富美子は「きったなー!」と爆笑しながら私の背中を叩いた。 「……もしかしたら、舞はもう知ってるのかなーって思ってたんだけどな。だって、片倉リノハとたまに絡んでたよね? まだ連絡とってんの?」  私は呼吸を整え、ティッシュで口を拭いながら、「覚えてない。そんなやつ」と返した。富美子の手前、冷静を装っているけれど、まだ腸が煮えくり返っている。  自分たちの教室へ戻ると、ほとんどの生徒が学校机にしがみついて受験勉強に励んでいた。  高校三年生の十二月。すでに進路が決まっている私や富美子は教室内で肩身が狭く、寒空の下、中庭で昼食をとるようにしていた。  殺気立つ教室に戻ってきてもまだ、私の腹の虫は静まらない。机を脚で蹴りたくなる。財布の中身を全て取り出して、窓からばら撒きたくなる。  私はそのくらい、片倉リノハに怒り狂っていた。 「――リノハッ!!」  地元の駅ビルの前に小さい人影を見つけ、怒鳴るように彼女の名を呼んだ。  くたびれたダッフルコートに身を包む女の子が雑踏の中で振り返り、――満面の笑みを見せる。
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