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正義の味方ジャスティスピンク
ピーチは大幹部に子猫のように甘えてみせた。
「フフゥン」
大幹部も苦笑いを浮かべた。こういう時は決まってチップの要求だろう。
桃田ピーチは数多くの指名客を抱えているので名前を間違える事を配慮し、常連客のことを全員『ダーリン』と呼んでいた。
まったくあざといタイプだ。しかし常連客らはピーチの手練手管に騙されていた。
当然ながら接客は一対一なので、常連客も自分だけ『ダーリン』と呼ばれていると勘違いしていた。
どんなプレイボーイも彼女に掛かれば、釈迦の手の平で弄ばれる孫悟空みたいなモノだろう。
さすがの悪の大幹部も小悪魔のピーチには叶わない。難なく手玉に取られていた。
「ン、なんだ。ピーチ。またチップのおねだりか?」
しかし騙されているとも知らず、悪の大幹部は肩をすくめ苦笑した。毎度のことなのだろう。
「フフッ、だってェ、しょうがないじゃん。別に贅沢してないのに毎月赤字なんだから」
「ふぅん、そうか」
毎回、大幹部は彼女の愚痴を聞かされていた。ようするに借金で首が回らないらしい。
「ろくにスマホ代も払えないんだよ。部屋代も光熱費も滞納してて、ヤバくなァい?」
桃田ピーチは大げさなジェスチャーで窮状を訴えた。
「フフゥン、だったら、一刻も早くこんな仕事辞めたらどうだ。オレがもっと割りの良い仕事を紹介するよ。愛人とかね」
「いやいやァ、どうせ辞めるんなら、ソープ嬢じゃなくって。正義の味方の方ねェ」
「えェッ、正義の味方?」
「そうそうッ、これは絶対に言っちゃダメだよ」
内緒と言うように唇の前に人差し指を添えた。
「ン、ああァ、もちろん誰にも言わないよ」
悪の大幹部はためらいがちにうなずいた。
「私さァ、バイトで、正義の味方『ジャスティス・ピンク』をやってるの」
「なッ、正義の味方を。マジか?」
「マジマジ、信じられないでしょ。ほらァ近くにギルディアの怪人が出たら、ソッコーで駆けつけて闘わなきゃならないのよ」
「ふぅん、そうなのか」
悪の大幹部も複雑な胸中だ。
まさか正義の味方ジャスティスピンクの常連客が悪の秘密結社ギルディアの大幹部とは言えない。
なおもピーチは文句をつけた。
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