タカムラ見聞記 米騒動

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 タカムラは、二度目となる長州征討がなされるのか、世の成り行きを確かめたく、暫くはここに止まることにした。九月も下旬になって、禁裏には江戸幕府十四代将軍家茂や一橋慶喜も参内しての朝議が行われたが、征討に反対する公家の近衛忠房が出て来ずにいた。紛糾する朝議に、タカムラは興味を持って見ていたが、ふっと思いついて近衛の控えの間に赴いた。そこには近衛を押し止める薩摩の大久保なる藩士がいた。激怒する一橋に、近衛を呼び出す使いが出され、漸く朝議に現れた近衛に、「将軍を初めとして幕府方一同の職を辞する」との一橋の荒げた声が飛んだ。この後、議事は一決し、長州征討の勅許が下された。  これで如何なる騒乱が起こるのか、また人々が困窮する米価がどれほど上がるのか。タカムラは世の成り行きに立ち入ろうかとも考えたが、閻魔大王との口約もあって、避けて様子を見ることにした。  この後、幕府は兵庫開港を巡って英国公使との交渉に時を要したが、年も押し詰まる霜月に長州出兵を各藩に命じた。合わせて兵糧米確保のために米の買い占めがあり、これに乗じて各藩や米問屋も同じ歩調を取っている。年が変わり十万を超える軍勢が戦線に赴いた初夏の頃、米価高騰に耐えかねた人々が各地で米倉や米問屋の打ち壊しを起こした。だが当面する戦局に向き合っている幕府は米価どころでは無く、六月に始まった各地での戦闘に敗色が濃厚となり七月末の小倉城での戦いで敗戦が固まってしまった。
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