おまじないってお呪いって書くよね? 後編

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おまじないってお呪いって書くよね? 後編

 オーブンに入れた生地が焼き上がるのを待ちながら、三人は翡翠の淹れてくれたお茶を飲んでいた。新作の攻撃力が上がるとか上がらないとか言う魔道ハーブティだ。正直味は微妙過ぎる。別に戦闘中でもないし、戦闘する予定もないので効果が出ているのかも判別がつかない。  翡翠は笑顔で、『今日のはおススメ!』と、力説していた。が、新作ブレンドの実験台にされている節がある。ただ、いつもお世話になっているせいで拒めない。紅二も同様に『ビミョー』と、言う表情を浮かべていた。 「んー。これは……ナシ?」  二人の顔を見て、翡翠が聞いてくる。 「……あー。や。薬だとしたら、問題ないよ。けど。ハーブティとしては……」  遠慮して答えたけれど、買うかと言われたら買わない。翡翠の作る薬には、もっと分かりやすく身体能力を高める薬があるし、聞いた限りでは使われている茶葉は安価ではなかったからだ。 「だよな。でも、薬効って言うほどの効果はないんだよ。指定されている有効成分も規定値以下だし。  やっぱり……足りない。これじゃ。ダメだな」  そう言いながらも、翡翠はもう一口ハーブティを啜った。それから、ちょっと、顔を顰める。 「同じような効能のハーブティあるじゃん。それじゃ、ダメなのか?」  腕組みをしている翡翠に問いかけると、その名前と同じ色の瞳が燈の方に向く。それから、同じ色の長い睫毛が瞬く。ただの瞬きなのだけれど、まるで、新緑が風に揺れているようだと思う。 「うん。これは。ほかのヤツとはちょっと違うから」  細い指を唇に当てて、少し思案するように翡翠は答えた。 「え? マジックサンフラワーとは違うの?」  魔昏帯で変質したひまわりの総称。マジックサンフラワーは攻撃力を上げる薬効がある植物の代表格だ。影響を与えた魔昏の質によって効果にはかなりの違いがあるけれど、総じて身体能力を上げることで物理攻撃力を上げる効果がある。 「燈はよく勉強してるね」  今度は教師のような表情になって、翡翠は言った。  元々、強くなりたいという気持ちは強かったと思う。けれど、あまり体格的に優れない燈はいつだって、立ちはだかる壁の高さに足掻いていた。それが変わった一因が、翡翠に会ったことだ。翡翠は燈よりもさらに非力だ。けれど、その知識と魔道の力はたくさんの人を救った。  強いというのは力があることをさすのではない。  だから、この店に出入りするようになって、翡翠の話を聞いて、それをできる限り覚えておきたいと思ったし、翡翠との会話についていけるように魔道植物学や魔道薬学基礎の授業もとっている。 「これは。そういうんじゃなくて……」  カップの縁を翡翠の指がなぞる。 「なんて言うんだろ。うーん。そうだな。本当は持っている力を、ちゃんと使えるようになる。お茶。かな?  けど、やっぱり。もうひとつ。足りない。でもなあ……」  難しい顔をして、翡翠は考え込んでしまった。  本当は持っている力をちゃんと使えるようになる。お茶?  潜在能力を引き出すとか、そう言うことだろうか。それなら、やはり、別にそれ系の薬があるような気がする。 「翡翠。少しいいか?」  奥から、顔を覗かせたのは、現在この家に住んでいる5人のうちの一人。西原紫苑だった。本業は魔道法人アイギス所属のスレイヤーだが、普段はこの店の裏方を担当している。絶望的なまでに不器用なため、給仕は不可能と判断されて、人手不足の時会計をするくらいで、殆ど表には出ない。タンザナイトのような青紫色の瞳をした背の高いクール系のイケメンでレア度が高いと女子高生に人気がある。 「うん。焼き上がりまで、もう少しかかるから待ってて」  紫苑に返事をしてから、燈と紅二を振り返って、言い残して、翡翠は部屋を出て行った。
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