千夜くんの過去

7/12
前へ
/45ページ
次へ
香澄はそう言うが、毎日のように喧嘩に明け暮れている俺の制服の裾は、どうせ直したところで又直ぐに、ほつれちまうだろう。 喧嘩はバイクに乗るのと同じくらい、俺にとっての自己表現でもあった。 「要らねー世話だ。それに早くしねーと下校時刻になっちまうぞ」 「大丈夫。片付けてくれている間に直すから」 引き下がらねー香澄に、俺は根負けすると制服を脱いで、赤シャツ1枚になった。 「ほらよ、制服。時間がねーから、とっとと済ませるぞ」 香澄が裁縫をしている間に、俺は手際良く片付けを済ませていった。 全部終わらせて香澄の方を見ると、本当にこの短時間で直したらしく、玉留めした糸を切ったところだった。 「終わったわよ」 「コッチも片付け終わった。…驚いたな。本当に直し終えるとは思わなかったぜ」 「速さだけじゃないわよ。きちんと直っていると思うけど、どう?」 俺は香澄から制服を受け取ると、裾を触ってみた。 見た目が綺麗になっただけじゃなく、簡単にほつれないように、しっかり縫われている。 こんな事されたの初めてだった。 「上手いもんだな。良い嫁さんになれっぞ。俺が貰ってやりてー位だ」 自分でも驚く位、自然とそんな言葉が出た。 「…貰って欲しいわ。千夜くんの事、初めて逢った時から好きだったから…」
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加