芳香

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「ひ、っ! ……────」  悲鳴を上げる前に、その身体が崩れ落ちる。  咄嗟に一番近くにあったガラスの一輪挿しで後ろから頭を殴ったから。細身だけど倒れないように、分厚くて重さもある、花瓶。  当然、周囲には中身の水と、生けられてた花が散らばってる。 「どうしよう。……もう冷蔵庫には入らないわ」    でも、あんなに大変だったんだから今度はやりたくない。  このままでもいいか。匂いは花で誤魔化せるわよね。  殺して「冷蔵庫に入るよう」にしたお風呂場だけじゃなくてこの部屋も、どれだけ掃除しても血の匂いが染みついて消えない気がしたのよ。  でも花の香りのおかげで気にならなくなったんだから。  試験の最終日。  いきなりこの部屋にやって来た蓮也が、平然と話し出した。 「わかなちゃんがさぁ、あ、あの一年のめっちゃカワイイ子な。押したら意外と満更でもないってか、『付き合ってもいいかな〜』って感じなワケ」  別れ話にも乗り換えにも、罪悪感なんて最初から持ってもいなかったのよね。私はただの繋ぎで、ちょっと毛色の変わった相手でしかなかった。  何でも逆らわずに自己主張しないのが新鮮、って言ってたわよね。いつも美人で自信家とばかり付き合ってたみたいだから。 「……それが?」 「だからお前とはもう終わりだって言ってんの。わかるだろー。華世もまあ顔はキレイだけど、あの子とじゃ勝負になんねえって」  真剣味の欠片もなく、ヘラヘラ笑ってた男。
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